巡る思い、ぐるぐる...
「今日は調子良さそうだから、歩いて行っていいですか?」
「だめ。絶対ダメです」
「じゃあ、車で行きます」
シェパードの飼い主さんから電話がかかってくる度にそんな会話の繰り返しだった。
元気な時に歩かせたいってのは分かるんだけど...。
でもさ、万が一、途中で歩けなくなったりしたら大変だよ。
てゆーか、調子いいのなら来なくてもいいのにな。
診察を終えて会計を済ます時、
「先生に診てもらうと、安心出来るから...」
飼い主さんは笑ってそう言った。
そっか、だから来てくれるんだね...。
元気なら来なくていいよ、なんて言えないか。
けど、いつしか『歩いて行っていいですか?』と言う電話はなくなった。
いつもの小屋にいないからと慌てて探してみると、庭の隅で倒れて動けなくなっているなんてことが続いたから。
それでも、車に乗ってやってくる。
けど、診察室まで歩くだけで呼吸が深く激しくなった。
もう、いいよ。わたしが行くから...。
夜、電話がかかって来たその日、いつもより調子が悪いとのことだった。
診察が終わったあと、往診カバンに注射を詰め込んで出かける。
もう2日、食べてないみたい。
お腹は出血のせいで大きく膨らみ、じっとしていても呼吸は深かった。
歯茎は真っ白。
後足に少し浮腫が出て来てる。
低タンパクか。
そろそろかな。
あと、数日...。
「実は明後日から、どうしても仕事で2日間、家を空けなくてはいけないんです」
不意をつく言葉。
おとうさんが話を続ける。
「それで、先生のところで預かってもらえると安心なんですけど...」
ああ。
なんでまた、こんな時に...。
「何かあっても、もう、覚悟は出来ていますから...」
そんな...。
でも、断れない。
でもさ、でもさ...。
この状態じゃ、まさしく一番危ない時かも。
場合によっては、預かるその日までもたないってことも...。
そのほうがいいか...って、不謹慎だぞ!
ここまでがんばったんだから、きっと最期はおとうさんと一緒にいたいはず...。
預かったとしても、わたしに世話させてくれるかな?
弱っていてもシェパードだぞ。
て、ゆーか、
それよりも、病院まで移動できるかな?
アンプルから注射器に液を吸いながら、いろいろな思いが頭の中を巡った...。
どーなる?




