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お年寄りの手術


 この半年ですっかり老け込んじゃったねぇ...。


 カルテ番号、001。

 開業して、2番目に来てくれた近所のラブラドール。

 カルテ番号は000から始まっているので、2番目なんだ。

 このラブラドール、去勢してないからか、全然落ち着きのない子だったんだけど、もう、そんな時の様子はまったく見られないね。

 後ろ足はかなり弱って、時々ナックリング。

 よろけて座り込んじゃうと、立ち上がれなくなることもしばしば。

 痩せて、筋肉も落ちたよね。

 食欲はあるみたいだけど、

 少しぼけもきてるかな...。


 でも、まぁ、こんなでも、のんびりと余生を送れると良いねぇ...。

 と思っていたんだけど、あちこちに何やらできものが...。


 まずは、頚部皮膚のイボ状のできもの。

 これは放っといても良さそうなものだけど、時々傷が付いて出血しちゃうので飼い主さんちょっと気にしてる。

 2つあるね。


 つぎ、右上眼瞼の腫瘍。

 ちょっと角膜に刺激与えてるみたい。

 たまに出血もある。


 さらに、肛門横の2センチほどの腫瘍。

 一部表面の色が暗赤色に変わってきてるので、そのうち自壊するかも。

 自壊したら出血だらだらでちょっとよろしくないかもね...。


 で、最後に一番厄介そうなのが、口腔内の腫瘍。

 出血して臭ってきてる。

 これ、もしも悪性のものだと...、

 先を考えるとつらいなぁ...。

 

 少なくとも、お尻と口のが何とか出来ると良いんだけど...。

 今の状態じゃ、麻酔が心配だよね。


 すると、飼い主さんは手術を希望した。


 「ぼけがもっとひどくなるかも...」

 「よけいに歩けなくなるかも...」

 「手術中に亡くなることもあるかも...」


 それでも、飼い主さんの決意は変わらない。

 「最後に出来るだけのことをしてあげたい。覚悟は出来ています...」と...。



 

 そして手術当日。

 術前検査では、わずかな貧血以外異常は見られなかったけど、それでも不安を持ちながら麻酔導入。

 飼い主さんが、いくら覚悟は出来てるって言っても、ほんとに死んじゃうとは思っていないはず。

 だから、殺したらいけない。

 さぁ、がんばれ!

 挿管。

 あれ? 呼吸、止まっちゃった...。

 心拍がしっかりしてるから良いか...。

 しばらく人工呼吸。

 数分して自発再開。

 

 じゃあ、まずは肛門から頭を出しているように見える腫瘍から。

 巾着縫合が出来ない位置だから、肛門にガーゼ突っ込んでおく。

 切開。

 直腸の粘膜から出てると思ったら、中身は境界が明瞭。

 これならマージンも取れそう。

 問題なく切除。

 汚れそうな場所なので、縫合はナイロン糸で。

 そいでもって、万が一開いちゃうといけないので、出来るだけ細かく縫う。


 つぎ、約5ミリの眼瞼の腫瘍。

 触ってみると、腫瘍は表面に出てるだけじゃなく眼瞼の中まで深く入ってた。

 なので眼瞼をV字に切除。

 止血後、埋没で縫合。

 これくらいなら、瞼が歪まなくてもすみそう。

 これまた細かい作業なので、だんだん肩凝ってくる...。

 肉眼で見られる糸って6-0位が限界かな?

 腰、痛くなってきたぞ...。


 そして、口。

 左上大臼歯付近の頬部粘膜内側。

 腫瘍の大きさはうずらの卵を2個つなげたくらい。

 表面からわずかに出血してる。

 この感じなら、何とかとれるかも...。

 電気メスで切開。

 切り進んだところでヤな予感。

 塊の根元が細くなっていたのでそこで切っちゃえば良いと思ったけど、切開面は明らかに正常な組織じゃない。

 周囲に浸潤してる。

 まずいね、これは。

 とれるだけとって、とりあえず、組織検査の結果を待とう。

 胸部レントゲンに見られた小さなカゲも、結果次第では心配かも...。


 最後に皮膚の腫瘍の切除、2か所。

 8ミリのパンチじゃ、小さすぎて無理。

 なのでメスで皮膚切開。

 とっとと済ませる。


 おーし、これで、飼い主さんが希望したところは全て終了。




 夜、帰る頃にはフード食べてた。


 がんばったね。



 


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