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ランスのさだめ  作者: ベギラマ雄子
王位継承編
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砦の偵察その3


 メグレズ砦は森に囲まれた場所にあって、私達は砦へ続く一本道を進んでいた。


「メグレズ砦が見えてきたわ。なんか普通の砦みたいだけど、少しサイズが小さい様な気がする。ん?ちょっとガルシアストップ」


「急にどうしたのだ」


 ガルシアは荷馬車を止め、ランスは身を乗り出し筒状にした手を片目に当て、砦を凝視した。

 寝ていたジルバが急停車した反動で起きてしまい、不機嫌そうにランスへ話しかけた。


「何か見えるのかランス。あのよ、前から聞こうと思ってたんだけど…その手を丸くして片目で覗くと遠くまで見えるのか。普通に単眼鏡使ったらどうだ、無いならやるよ」


「こうするとね、単眼鏡よりも良く見えるのよ」


 そんな自慢気に言われてもね、どういう理屈で遠くまで見えるか教えてくれ。単純にお前の目が良すぎるだけなんじゃないか。


「木が邪魔ではっきりとは見えないけど、砦の周りを走っている人が沢山いるわ」


 単眼鏡で確認するガルシアとジルバ。


「どれどれ…恐らく守備兵だろうな」

「トレーニングでもしてるんだろ。リーダー問題ないでしょ、このまま行こう」

「そうだな。ランス、人の目が多いから魔法は使うなよ。商談が上手くいかなかったら一旦出直しだ」


 門の前に到着したランス一行は、早速、商人を装ったガルシアが門番へ商談を持ち掛けていた。


 やっぱり、砦周りを走ってるの全員守備兵。しかも、上半身裸の筋肉ムキムキマッチョだわ。


「武器や防具、装飾品の買取もやっているんだ、高値で引き取るよ」 


「隊長、どうします」


 走り終えた守備兵がこっちへ向かってきた。

 二メートルはありそうな身長と、鍛えぬかれた引き締まった筋肉、まさしくマッチョの中のマッチョ。はにかむ笑顔は私が知っているジョン・メイトリックス大佐そのもの。生まれ変わりと思ってしまうぐらいそっくりだった。


「メイトリックス大佐」

 私は思わず敬礼した。


「俺はメグレズ・ウルス、ここの守備隊長をやっている。メイトリックスとは誰の事だ」


 ジルバが慌てて間に入った。

「あんたとそっくりな知り合いがいたんだよ。気にしないでくれ」


 メイトリックス大佐って、俺も知らねえよ。てか、いつまで敬礼してんだあいつは。

 

「ぼろぼろの武器と防具が山ほどある、売れるかどうか見てくれ」


 メグレズ守備隊長自ら案内してくれることになった。流石、大佐。

 砦の中へ入ると、広場にはアスレチックが広がっていた。アスレチックと言っても遊ぶ為じゃなく、身体を鍛える為に改造された物だった。

 興味本位で砦にいる守備兵の人数を、大佐に聞いてみた。


「五百五十五人だ」


「結構少ないですね」


「この人数で十分だよ。その気になればアントルメを半日で滅ぼせるぞ」


 大佐は冗談のつもりなんだろけど、ガルシアとジルバは青ざめていた。これだけ鍛え上げられた人達を見ると冗談に聞こえないのかもしれない。


「筋肉ムキムキの人達が一斉に突撃してきたら、一溜まりもないですよね」


「突撃はしないさ、我々はゲリラ戦が得意なんだ」


「そんなにべらべら喋っちゃっていいんですか。もしかしたら、私達がアントルメに情報提供するかもしれませんよ」


「問題ない。仮に漏れたとしても、我々は負けない」


 大佐は笑顔で答えた。

 負けるはずがないと信じ切っているようだった。余程の自信があるんだわ。


「そのぐらいにしておけよ」


 ジルバにボソッと口止めされた。

 余計なことを喋るなってことね、はいはい分かりましたよ。

 敵の情報が聞けたんだから少しは感謝してよね。


 倉庫に着くと、大量の武器と防具が無造作に置かれていた。

 毎日命懸けの訓練をしているらしく、どれを見てもぼろぼろで原型を留めていない物まであったけど、私達は全て買い取った。

 全部と言ってガルシアとジルバは何故か驚いていたけど、私の魔法で全て元通りにしてみせるから大丈夫。

 何度か往復して荷馬車に全部積み込んだ。筋肉ムキムキの人達も手伝ってくれたわ。


「この金で新しいアスレチックを造ろう」


 そう言った大佐は嬉しそうだった。

 これから私達が砦を制圧するなんて思っても見ないだろうに、そう思っていたら別れ際にこんな事を言われた。


「いつでもかかってくるがいい、受けて立つ」


 二人はギョッとしていた。もちろん私も。

 全てを知っている様な言い草だった。

 自信に満ち溢れている大佐を見て、強敵だと思った。この人と戦いたいとも思ってしまった。

 だから私は…


「また会いましょう、大佐」


 私達は砦を離れた。


 恐らくあの子がダリアの光か。

 他の奴らとまるで雰囲気が違う。

 それにあの眼、あの若さで人を見透かす様な眼をしていた。一体どんな経験をしてきたのか。

 戦いに身を投じていると、一目で相手のおおよその力量が分かってしまうが、初めて敗北を予感させた。


「隊長、どうしました」


「いや、不思議な子だと思ってな」


 アントルメへ戻っている最中に、ジルバが唐突に言った。


「リーダー、バレたと思うか」


「吾輩もその事で考えていた。あの言い方だと可能性は高い。一度ジェラルド公に相談してみるよ。それとランス、このガラクタはどうするんだ」


「私の家で全部預かるわ。それにしても大佐じゃなくて、あのメグレズっていう隊長、相当強いわ」


「見れば分かる。他の奴らもそうだが、俺達が束になっても敵わないかもな。てか、なんとか大佐って誰、随分ご執心じゃん。筋肉ムキムキおっさんが好きなのか」


「母が寝る前によく読み聞かせきてくれた、絵本の話よ。退役軍人だった元大佐の娘が誘拐されて助け出すの。空を飛ぶ乗り物から飛び降りたのに無傷で走ったり、悪い奴らのアジトを吹き飛ばしたり、とにかくワイルドでかっこいいのよ」


「子供を寝かしつける話にしては随分過激だが、その絵本の主人公がメグレズに似てるってことね」


「瓜二つよ」


 山積みの武器と防具を自宅まで運び、三人で夕食を食べながら明日どうするか話し合った。


 翌日。

 ガルシアがジェラルド公に、偵察任務の中間報告をする事になった。その結果次第で今後の動き変わってくる。私とジルバは待機することになった。


 せっかくだから、昨日買い取った大量の武器と防具にコクシネル(ランスのおまじない)を付与していった。

 ぼろぼろだった武器と防具は、新品同様な状態になった。


「成功ね。更に強くなる様に付与して…これでよし」


 今日中に全部は無理そう。あと、私の魔力が持つかどうか分からない。まだまだ行けそうな気がするから、限界までやってみよう。

 因みに、暇があればコーチから教わった修行をしてる。少しずつ精度が良くなってるけど、これがどの位強いのか正直分からない。相手を攻撃する様な魔法を使ったことがないし、考えてもいない。あからさまに魔法を披露すれば魔女扱いで即処刑だしね。防具にコクシネル(ランスのおまじない)を付与してるぐらいで事足りている。水底の剣もあるし。でも、これから本格的な戦いになりそうだから、そろそろ考えとく必要があるわね。魔法陣を描く所から始めるから、どうしても魔法発動までに時間がかかるし、やっぱり戦いながら魔法使いたいわ。呑気に描いてたら死ぬ。


 玄関をノックする音が聞こえて、開けるとガルシアとジルバがづかづか入って来た。


「まずは、結果を報告する。次のフエクダ砦が最後の偵察になった。メラク砦の一件で、各橋の手前で検問している事と、砦の制圧は奇襲することに意味があり、相手に身構えられると無駄になる。制圧日程を早める事になった」


「他の砦の情報がないと失敗する可能性が高まる気がするんだけど」


「ランス、お前の言いたい事は分かるが、メラク砦はまず入れないだろう。アルカイド=ベネトナ複合要塞は元々我々の物だ、ある程度推測できる」


「あくまで推測ね、ジルバはそれでいいの」


「ああ、いいぜ。これはジェラルド公様の命令だぞ」


「分かってるわよ」


「そんな、不貞腐れるな。吾輩だってただ頷いていた訳ではないのだ。それに、お前には重大な使命があるのだ」


「えっ、なになになに」


 めっちゃ嬉しそうだな。流石リーダーだぜ、上手い。


「ランス、お前には民兵を集めて欲しい」


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