満月の夜その12
「サイコクラッシャアの構え」
何かの取扱説明書で読んだ事あるわ。
確か、魔力を纏って回転しながら突進する技だったはず。
サガトは自分の体を包む様に翼を覆い、ドリルの様に回転しながら突っ込んできた。
「何だ、ダルシムか」
「ダルシム舐めんなクソガキ!」
すんでのところで避けたランスは、アルザスに跨り全速力で逃げる。
あまりの速さに、アルザスが通る道を草木が避けている様に錯覚するほどだった。
木々を破壊しながら誘導ミサイルの如く追尾するサガト。徐々に距離を縮めてきた。
「追いつかれるわ、根性見せなさい」
アルザスの速さについて来れるなんて、あの赤い軍帽は伊達じゃないわね。
森を抜け、平野へ飛び出した瞬間、アルザスは電池が切れたかの様に動かなくなり、ランスは空中へ投げ出されてしまった。
「アルザス何やってんのよ」
このままじゃ、ダルシムじゃなくてサガトにやられちゃう。コクシネルを描く時間がないわ。こうなったら…
「その赤い軍帽かっこいいわ、気を取り直して話し合いましょう」
「欲しいだろ」
「いらないわ」
「消えてなくなれええええ!」
作戦失敗、もう避け切れない。
ランスが、咄嗟に水底の剣を抜いて防御しようとした瞬間、サガトは真っ二つに斬られ灰になって地へ溶けていった。
「怪我はないか」
武装した黒い軍馬から降りて来たのは、漆黒の鎧を身に纏い、黄金色の長髪に切れ長の目をした長身の女性だった。ランスを見下ろす真紅の瞳には、威圧感と冷たさを感じる。
この人、赤い奴を超える物語のラスボスみたいな身なりと雰囲気してるわ。それにこの感じ、間違いない。
「大丈夫、助けてくれてありがとうございます。先を急ぐので、それでは」
ランスは赤い軍帽を拾って、アルザスを引きずりながらそそくさとその場を後にした。
「さりげなく軍帽を持って行ったな」
それよりも、あの子から魔力を感じたような…いや、まさかな。
森の中へ引き返したランスとアルザスは、身を隠せる場所で休憩していた。
「危なかったわ、ダブル回避」
地上に出れたと思ったら、変な鳥人間に追いかけられて死にかけるし、ラスボスみたいな奴が出てきて魔法使いだってばれそうになるし、いや…ばれたかな。私が感じたということは向こうも同じはず。念の為もう少し休んでから森を出よう。
「アルザス、これあげるわ」
いらなかったけど、何故か持ってきてしまった。
アルザスの頭へ赤い軍帽を被せたら急に顔の雰囲気が変わって面白かった。試しに私も被ってみたら同じ様に変わった。それに、逆立ちしてもやっぱり軍帽は落ちなかった。どうなってんのよこの軍帽。
赤い軍帽でじゃれ合った後、ほとんど残っていない水をアルザスと分け合って飲み干し、出発した。
警戒しながら進んで、茂みに隠れて平野を見渡した。
「誰もいないわね。ちょっとアルザスじっとしてなさい」
「ブガ」
そりゃそうよね、こんな所で人と出くわすなんてそうそうないわ。ん?…こんな所に人がいたって事は…近くに村か町があるかもしれない。旅をしてるって感じじゃなかったから、きっと馬を走らせればその日に到着できる距離ってことだわ。でも、どこから来たか分からないわ。
「蹄…馬の蹄の跡を辿ればいいんだわ。そこの赤い軍帽を被ったあなた!一緒に探しなさい」
「ブガ」
アルザスは敬礼した後、地面へ擦りつける様に匂いを嗅ぎ始めた。
「ブガガ」
「もう見つけたの、はや」
よし、この蹄の跡を辿って行こう。きっとあるはずだわ、運が悪ければ動物狩って野営ね。
ランスとアルザスが歩き続けているうちにすっかり夜になっていた。蹄は見え辛くなっていたが、アルザスの嗅覚を頼りになんとか辿っていた。
「明かりが見える。やっぱり思った通りだわ」
村に着いて宿を探していると、壊れている建物が何度も目に映った。
「一泊、ダリア銀貨一枚になります。君一人で来たの?小さいのに逞しいね」
エン婆から貰ったお金で一泊。圧倒的感謝。
一階は酒場で、二階が宿なのね。それにしても、村に入った時もそうだったけどジロジロ見られてるような、まあ無理もないわね。
「そのダチョウが被ってる軍帽って、まさかハルピュイアのサガトを討伐したのか」
「違うわ、赤い目をした人が…」
店の扉が開くと、その場にいる飲み食いしていた客から一斉に歓声が上がった。
「まさか…」
振り向くと、真紅の瞳をした女性が立っていた。
「おやじ、一泊だ」
「この人がサガトを倒したのよ。それじゃ」
「待て、お前に話がある」
「もう疲れたから、さっさとご飯食べて寝たいんだけど」
「奢ってやる。おやじ、クロワッサンとビーフシチュー二人分」
「あと、クロワッサン十個下さい」
「…」
「あいよ」
隣の馬小屋にアルザスを入れて、クロワッサンを食べさせた。隣には厳つい馬がいて武装は外されてる。絶対あの女の馬だわ。
お店に戻ってテーブル席へ向かうと、既に食事は運ばれていて、目の前にはあの女が座っていた。
「私はヤークス・ド・クラモワジ。ダリア王国軍特殊部隊の総長をしている」
「私はランス・メルクルディ、馬小屋にいるのはアルザス・エットーレよ。話が長くなりそうだから先に食べせて、死ぬ程お腹空いてるの」
夢中で食事をしているランスを、ヤークスは黙って見ているしかなかった。
やはりな。この子から微弱に魔力が流れている。まさか私以外に魔法使いがいたなんてな。恐らく、私が魔法使いだという事もこの子は気づいているだろう。
「ふう、生き返った。それで、話ってなに?」
「単刀直入に言う、お前は魔法使いだ」
「そうよ、貴方もでしょ。というか、ここでその話するのは不味いんじゃない」
「気にするな、これだけ人がいれば私達の話は掻き消される」
「それもそうね」
「何しにここへ来た」
「それを言う前に、何故私に興味を持ったのかってこと」
「私以外の魔法使いに会ったのは初めてだからな、興味を持つのは当然だろ。警戒するな、お前を処刑する為にここへ来たわけじゃない」
「じゃあ、何故」
ヤークスは面倒くさそうに話を続けた。
「この村は私の故郷なんだ。よく魔物に襲われる村でな、ハルピュイアの討伐依頼があったんだよ。だから安心しろ、お前を追って来たわけじゃない」
なるほど、それであんな所にいたのね。
「今度はお前の番だ」
「私の村がなくなる前に、自称オーディンとか言う神様から言われたの。生き続けたいならダリア王太子を王様にしなさいってね。だから、王都へ向かってる途中なの」
「信じずる証拠は?」
「水底の剣を貰ったわ」
この剣、魔法で鍛えられているな。今までにこんな物を見た事はない。しかし、神様ときたか。俄かに信じがたい話だ。
突然、店の扉を乱暴に開けて男が叫んだ。
「大変だ!ガレンダーが攻めて来たぞ」
ヤークスはすぐさま店を飛び出し、屋根まで上がった。
暗くて見え辛い。数は300程度か…何だあれは、荷馬車?何を積んでいるんだ。
ランスは馬小屋へ向かい、寝ているアルザスを叩き起こしていた。
「ランス!お前は村の人達を避難させろ。この数なら私一人で十分だ」
「一人でなんて無茶だわ」
逃げようとしている村人はランスヘ言った。
「ヤークス様なら大丈夫だ。なんてたって、竜の血を飲んで甦ったダリア王国最強の戦士なんだ。だから、とにかくあんたも逃げるんだ」
ヤークスの長剣から放たれる斬撃は、一瞬でガレンダー兵数十人を葬った。
「強すぎ…私も飲んでみたいわ」
ランスはアルザスに跨り、村中を駆け回って村人達を村の外まで避難させた。
一方、ヤークスによって次々と倒されていくガレンダー兵は、急に後退した。
兵が引いて行く…逃すか。
追撃するヤークスの前に、巨大な檻が不気味に置かれていた。




