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ランスのさだめ  作者: ベギラマ雄子
王位継承編
15/17

満月の夜その11


 私達はようやく森を抜けることができた。

 空はもう真っ赤に染まっていて、山岳が光を遮っているから今いる場所は真っ暗。

 どうしてこんなに遅くなってしまったかというと、森に入ってからアルザスが違う方向へ行ったり、突然寝たかと思うと急に起きて踊りだしたり、方角が分からなくなって森の動植物に助けてもらって、ここまで辿り着いた。要するに全部アルザスが悪いってこと。


「これじゃあ暗くてパンジー見つけられないじゃない」


「ブガガ」


 何で驚いた顔してるのよ。

 また突然走り出してぐるぐる回り始めた、次は何なのよ。


「ん…あれって…」


 ランスは慌ててアルザスの所へ向かった。

 ゆっくりと流れる雲から月が顔を出した時、核心に変わる。

 月夜に照らされて輝く、薄紫色のパンジーを発見したのだった。


「でかしたわ、アルザス。あんた凄いわ」


「ブガ」


「いや、もう回らなくていいから」


 どうしようかな。

 地下道は初めて入るし何が起こるか分からない。それならここで野営した方が安心ね。パンジーも見つけたことだし、ゆっくりしよう。


 ランスは、地面へコクシネル(ランスのおまじない)を描くと、そこから火がボワっと出てきた。


 焚き火風にしてみたけど、本物の火じゃないから温かくないし、独特の臭いもしない。何か物足りない気がするけど、いちいち火を起こすの面倒くさいし、木や草に火が燃え移って火事になるよりマシよね。


「アルザス、こっち来て座りなさい」


 アルザスを枕代わりに仰向けになって寝そべるランス。

 夜空に満天の星が広がり、時折流れ星が通った。


「流れ星に願い事を三回唱えれば叶うって、大人になっても本気で信じてる人はなかなかいないわ。最後は塵になって消えてゆく様に、願っているだけでは何も叶わないと分かってしまうから。だけどね、私は流れ星を見るたびに現実と向き合うことができるの。願いは叶うものじゃない、自分で叶えるもの。その為には考えて()()することだって…。そう思わないアルザス」


 って、目を開けながら寝てるし。

 まあいいわ、私も寝よ。

 目を閉じると心地良い虫の音が聞こえてきて、すぐに意識は遠くなっていった。


 目が覚めると、同じ夜空を見ていた。

 一体どのくらい寝てしまったのか、寝る前と変わらない満天の星空。

 当然焚き火風は消えていない。

 持ってきた荷物を確認する。水底の剣、大量のクロワッサン、大人用の水袋、巾着袋、これで全部だわ。

 でも何か忘れてるような…あれ、そういえばアルザスがいないわ。


「クロワッサン全部食べちゃうわよ」


 ランスは、遠くまで響き渡る様に言った後、布袋からクロワッサンを取り出し食べ始めた。

 すると、どこからともなく猛烈な勢いでアルザスが戻ってきた。


「どこ行ってたのよ、ほれ」


 クロワッサンを食べていると、次第に空は薄明るくなって、アオジやスズメの鳴き声が聞こえてきた。


 少し早い朝食を食べて、焚き火風を消し、紫色のパンジーが咲いている場所へ向かった。


「確かこの辺りにあるってエン婆が言ってたんだよね。あったわ。」


 岩壁に描かれている小さな魔法陣を発見したランスは、そこに手を当てて魔力を流した。

 すると、岩壁が小刻みに揺れて地下へと続く階段が現れた。

 下を覗くと真っ暗で先が見えない。


「遊んでないで行くわよアルザス」


 ランスは、手の平にコクシネル(ランスのおまじない)を描き火を付けて、アルザスと共に階段を降りて行った。


「坑道みたいな所ね。迷路になってなきゃいいんだけど」


 暫く、分かれ道がないまま真っ直ぐ進んで行くと、岩壁が立ちはだかり前に進むことが出来ない状態になった。

 ふと、足元を見ると魔法陣が描かれている箇所を発見した。


「そういうことね」


 魔法陣へ手を当てて魔力を流したが、何も起こらなかった。


「どういうことよ。これじゃ進めないじゃない」


 どうすればいいのか考え込んでいると、アルザスが魔法陣の上に立った時、急にそれは光だし、目の前の岩壁から顔が浮き出てきた。


「クイズ…なぞなぞファイヤー!」


 岩顔は、ランスを見るなり突然気合いの入った声で言った。


「うっさいわね。何なのよ」


「ここを通りたければ、クイズに正解しなくてはならない。さあ、どうする?」


「やるに決まってるでしょ」


「ブガ」


「よろしい。答える時は必ずファイヤー!を付けること」


 何でいちいち言わなきゃならないのよ、しょうがないわね。


「分かったわ」


「それではゆくぞ。クイズ…なぞなぞファイヤー!問題、答えは簡単、ずばり明日の天気は何だ。一、晴れ。二、雨。三、簡単」


「三の簡単ファイヤー」


「違う。ファイヤー!だ。気合が入ってないぞ」


 そんなに力んだら血管切れそうだわ。


「ファイヤー」


「もっとだ、それで全力か!」


「三の簡単ファイヤー!」


「そう、それでいい。正解だファイヤー!」


 岩壁もろ共崩れ去り、先へ進めるようになった。

 少し進むと、また岩壁が立ちはだかり顔が浮き出てきた。


「クイズ…なぞなぞファイヤー!」


「うわ、出た」


「ここを通りたければクイズに正解しなくてはならない。さあ、どうする?」


「はいはい、やります」


「それではゆくぞ。クイズ…なぞなぞファイヤー!問題、クロワッサンをカゴに三つ、さらに三つでカゴの中のクロワッサンは何個だ。一、三個。二、六個。三、九個」


「一の三個ファイヤー!」


「正解だファイヤー!」


 進むたびになぞなぞクイズに付き合わされ、ファイヤーファイヤーうるさくて眠れない時もあったり、最終的には黙らせたけど、百問目の解答を終えて入口にもあった魔法陣を発見した。ようやくなぞなぞクイズ地獄から解放されるわ。


 岩壁に描かれた魔法陣へ手の平を当てて魔力を流し込むと、小刻みに辺りが揺れ、岩壁が崩れ落ちた。

 目の前には、微かに光が当たっている上り階段が現れた。

 ランスとアルザスは、地上へ出れることを確信して階段を駆け上がる。

 照らす光は徐々に大きくなり、最後の一歩を踏み出した時、真っ白い光に包まれた。

 

 私の知らない森だ。

 遂に地上へ出る事が出来たわ。

 長かった、長く感じた。

 地下って時間経過が分からないし、風景も変わらないし狭いし埃っぽいし、アルザスがいなかったら心折れてたかも。

 大量にあったクロワッサンは無くなっちゃったし、水は底を尽きかけてる。

 とりあえず、一休みしながら考えようと思っていたら突然何かが降ってきた。

 私の日光浴を邪魔した物体を、ゆっくり足元から見上げたら、鳥人間だった。

 

「この魔力…同胞を殺した奴じゃないか」


 喋った。

 とうとう本物の鳥人間に出会ってしまったわ。じゃなくて、私とアルザスで倒した鳥人間よりひと回り体がでかい。しかも、頭に全く収まってない赤い軍帽を被ってるわ。

 何故か知らないけど、赤いものを身に着けてる奴って大抵偉そうにしてるわよね。

 あっ分かった。鳥人間のボスだわ、だから赤い軍帽被ってるのよ。


「あんた鳥人間のボスね。あんたらが来なければやられなかったはずよ」


「ブガ」


「そうだ。仇をとる為にあれだけの大群を送って返り討ちさ、とんでもない魔法使いがいたもんだ。だが、それはお前じゃない」


「私も魔法使いよ」


「ブガ」


「その程度で笑わせる。俺の名はサガト、ただのハルピュイアだと思うなよ」


 喋ってる時点で普通じゃないのは分かるわ。あと、ずり落ちない軍帽。


 サガトはランスへ向けて構えた。


「あの構えは、もしかして…」


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