満月の夜その11
私達はようやく森を抜けることができた。
空はもう真っ赤に染まっていて、山岳が光を遮っているから今いる場所は真っ暗。
どうしてこんなに遅くなってしまったかというと、森に入ってからアルザスが違う方向へ行ったり、突然寝たかと思うと急に起きて踊りだしたり、方角が分からなくなって森の動植物に助けてもらって、ここまで辿り着いた。要するに全部アルザスが悪いってこと。
「これじゃあ暗くてパンジー見つけられないじゃない」
「ブガガ」
何で驚いた顔してるのよ。
また突然走り出してぐるぐる回り始めた、次は何なのよ。
「ん…あれって…」
ランスは慌ててアルザスの所へ向かった。
ゆっくりと流れる雲から月が顔を出した時、核心に変わる。
月夜に照らされて輝く、薄紫色のパンジーを発見したのだった。
「でかしたわ、アルザス。あんた凄いわ」
「ブガ」
「いや、もう回らなくていいから」
どうしようかな。
地下道は初めて入るし何が起こるか分からない。それならここで野営した方が安心ね。パンジーも見つけたことだし、ゆっくりしよう。
ランスは、地面へコクシネルを描くと、そこから火がボワっと出てきた。
焚き火風にしてみたけど、本物の火じゃないから温かくないし、独特の臭いもしない。何か物足りない気がするけど、いちいち火を起こすの面倒くさいし、木や草に火が燃え移って火事になるよりマシよね。
「アルザス、こっち来て座りなさい」
アルザスを枕代わりに仰向けになって寝そべるランス。
夜空に満天の星が広がり、時折流れ星が通った。
「流れ星に願い事を三回唱えれば叶うって、大人になっても本気で信じてる人はなかなかいないわ。最後は塵になって消えてゆく様に、願っているだけでは何も叶わないと分かってしまうから。だけどね、私は流れ星を見るたびに現実と向き合うことができるの。願いは叶うものじゃない、自分で叶えるもの。その為には考えて実行することだって…。そう思わないアルザス」
って、目を開けながら寝てるし。
まあいいわ、私も寝よ。
目を閉じると心地良い虫の音が聞こえてきて、すぐに意識は遠くなっていった。
目が覚めると、同じ夜空を見ていた。
一体どのくらい寝てしまったのか、寝る前と変わらない満天の星空。
当然焚き火風は消えていない。
持ってきた荷物を確認する。水底の剣、大量のクロワッサン、大人用の水袋、巾着袋、これで全部だわ。
でも何か忘れてるような…あれ、そういえばアルザスがいないわ。
「クロワッサン全部食べちゃうわよ」
ランスは、遠くまで響き渡る様に言った後、布袋からクロワッサンを取り出し食べ始めた。
すると、どこからともなく猛烈な勢いでアルザスが戻ってきた。
「どこ行ってたのよ、ほれ」
クロワッサンを食べていると、次第に空は薄明るくなって、アオジやスズメの鳴き声が聞こえてきた。
少し早い朝食を食べて、焚き火風を消し、紫色のパンジーが咲いている場所へ向かった。
「確かこの辺りにあるってエン婆が言ってたんだよね。あったわ。」
岩壁に描かれている小さな魔法陣を発見したランスは、そこに手を当てて魔力を流した。
すると、岩壁が小刻みに揺れて地下へと続く階段が現れた。
下を覗くと真っ暗で先が見えない。
「遊んでないで行くわよアルザス」
ランスは、手の平にコクシネルを描き火を付けて、アルザスと共に階段を降りて行った。
「坑道みたいな所ね。迷路になってなきゃいいんだけど」
暫く、分かれ道がないまま真っ直ぐ進んで行くと、岩壁が立ちはだかり前に進むことが出来ない状態になった。
ふと、足元を見ると魔法陣が描かれている箇所を発見した。
「そういうことね」
魔法陣へ手を当てて魔力を流したが、何も起こらなかった。
「どういうことよ。これじゃ進めないじゃない」
どうすればいいのか考え込んでいると、アルザスが魔法陣の上に立った時、急にそれは光だし、目の前の岩壁から顔が浮き出てきた。
「クイズ…なぞなぞファイヤー!」
岩顔は、ランスを見るなり突然気合いの入った声で言った。
「うっさいわね。何なのよ」
「ここを通りたければ、クイズに正解しなくてはならない。さあ、どうする?」
「やるに決まってるでしょ」
「ブガ」
「よろしい。答える時は必ずファイヤー!を付けること」
何でいちいち言わなきゃならないのよ、しょうがないわね。
「分かったわ」
「それではゆくぞ。クイズ…なぞなぞファイヤー!問題、答えは簡単、ずばり明日の天気は何だ。一、晴れ。二、雨。三、簡単」
「三の簡単ファイヤー」
「違う。ファイヤー!だ。気合が入ってないぞ」
そんなに力んだら血管切れそうだわ。
「ファイヤー」
「もっとだ、それで全力か!」
「三の簡単ファイヤー!」
「そう、それでいい。正解だファイヤー!」
岩壁もろ共崩れ去り、先へ進めるようになった。
少し進むと、また岩壁が立ちはだかり顔が浮き出てきた。
「クイズ…なぞなぞファイヤー!」
「うわ、出た」
「ここを通りたければクイズに正解しなくてはならない。さあ、どうする?」
「はいはい、やります」
「それではゆくぞ。クイズ…なぞなぞファイヤー!問題、クロワッサンをカゴに三つ、さらに三つでカゴの中のクロワッサンは何個だ。一、三個。二、六個。三、九個」
「一の三個ファイヤー!」
「正解だファイヤー!」
進むたびになぞなぞクイズに付き合わされ、ファイヤーファイヤーうるさくて眠れない時もあったり、最終的には黙らせたけど、百問目の解答を終えて入口にもあった魔法陣を発見した。ようやくなぞなぞクイズ地獄から解放されるわ。
岩壁に描かれた魔法陣へ手の平を当てて魔力を流し込むと、小刻みに辺りが揺れ、岩壁が崩れ落ちた。
目の前には、微かに光が当たっている上り階段が現れた。
ランスとアルザスは、地上へ出れることを確信して階段を駆け上がる。
照らす光は徐々に大きくなり、最後の一歩を踏み出した時、真っ白い光に包まれた。
私の知らない森だ。
遂に地上へ出る事が出来たわ。
長かった、長く感じた。
地下って時間経過が分からないし、風景も変わらないし狭いし埃っぽいし、アルザスがいなかったら心折れてたかも。
大量にあったクロワッサンは無くなっちゃったし、水は底を尽きかけてる。
とりあえず、一休みしながら考えようと思っていたら突然何かが降ってきた。
私の日光浴を邪魔した物体を、ゆっくり足元から見上げたら、鳥人間だった。
「この魔力…同胞を殺した奴じゃないか」
喋った。
とうとう本物の鳥人間に出会ってしまったわ。じゃなくて、私とアルザスで倒した鳥人間よりひと回り体がでかい。しかも、頭に全く収まってない赤い軍帽を被ってるわ。
何故か知らないけど、赤いものを身に着けてる奴って大抵偉そうにしてるわよね。
あっ分かった。鳥人間のボスだわ、だから赤い軍帽被ってるのよ。
「あんた鳥人間のボスね。あんたらが来なければやられなかったはずよ」
「ブガ」
「そうだ。仇をとる為にあれだけの大群を送って返り討ちさ、とんでもない魔法使いがいたもんだ。だが、それはお前じゃない」
「私も魔法使いよ」
「ブガ」
「その程度で笑わせる。俺の名はサガト、ただのハルピュイアだと思うなよ」
喋ってる時点で普通じゃないのは分かるわ。あと、ずり落ちない軍帽。
サガトはランスへ向けて構えた。
「あの構えは、もしかして…」




