満月の夜その8
夜が更けてきた頃、ランスは自室に戻って日記を書いた。
エン婆から属性について教わった。
無属性を除く適正属性は、他の属性魔法を使うことは出来るけど、適性では無いからどうしても魔法の質が落ちてしまうし、習得するのに時間と労力がかかる。
例えば、適性属性が火だとして水の属性魔法を習得できるけど、適性は火だから水属性魔法の質が落ちてしまう。
無属性は特殊で、どんなに鍛錬をしようが魔導書で属性魔法を使おうとしても、他の属性魔法を使う事が出来ない。その代わり、属性とは異なる魔法を使うことが出来る。簡単にいえば、その他の分類。
前向きに考えて、ある意味属性に縛られない自由がある。なんか無理矢理自分を納得させているような気がする。もう、なんで適性が無属性なのよ。未だに納得いかないわ。しかも、数多くある属性の中で一番割合が少ない。まさか、そこにピンポイントで入ってしまうなんてついてないわ。
はぁ…適性属性は変える事が出来ない資質か…。
こんな気持ちじゃいつまでも先へ進めないわ。いい加減気持ちを切り替えて、どんな魔法を使いたいか考えなきゃ。それに、私が望む魔法を使えるかもしれないってエン婆も言ってたし。
属性に縛られない…自由…私だけの魔法。
私が望む魔法で、尚且つ無属性。
…ぜんっぜん思いつかない。いやいやいや、駄目よ集中しないと。考えるのよ、ランス。
ランスは、目をつむり考え込むが、いつの間にか寝てしまった。
徐々に、蝋燭が溶けてなくなり自然と火が消えて、部屋内は暗闇と静寂に包まれた。
すると、ひとりでに開きっぱなしの日記帳が仄かに光り出した。
ん…何…眩しい…。
「…日記帳…?光ってる!」
よく見たら、私の書いた文字が光ってる。どうしてか分からないけど、魔法以外ありえないわ。
…あっ、これだわ。これなら私が望む魔法が使えるかもしれない。
ランスは、満面の笑みで就寝した。
翌日。
エンダとアルザスが見守る中、昨夜思い付いた魔法を披露する。
地面に人差し指を当て、蝶とその周りを囲うように円を描く。
「プレミエクレール!」
ランスが唱えると、描いた魔法陣が光り出して、その中から光り輝く沢山の蝶が羽ばたきながら飛び出してきた。
その光景を見たランスとエンダは、驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
アルザスは興奮して、無我夢中で蝶を追い掛け回していた。
「こりゃたまげた」
まだ、一部の知識しか教えておらんのに魔法を使っているのじゃ。
「できちゃった…どう、凄いでしょ。これが私の魔法、私だけの魔法陣」
「ランスや、ばぉば以外に魔法を教わったのかい」
「誰にも教わってないわ」
「そうかい、そうかい。じゃが、魔力の扱い方も教えていないのに、どうしてできるんじゃ」
「昨日の夜、突然日記の文字が光りだしたの。文字が光るなんて魔法としか考えられないから、きっと想いの強さが文字に魔力を与えたのかなって思ったの。だから、私の想像と想いを魔法陣にしてぶつけてみたら、上手くいっちゃったわ」
「なるほど、なるほど。良い感覚じゃ。魔法は、使う魔法の原理を理解し、魔力を集中念じることで発現する。想いの強さは、魔力を高めるのじゃ」
「そうなんだ。私の感覚ちょっとずれてたかな」
「いいんじゃ、いいんじゃ。感覚でも何でも、魔法が使えれば結果オーライじゃ。知識なんて後からどうとでもなるのじゃ。肝心なのは、魔法の使い方じゃ」
「それは…母が教えてくれたわ」
「そうじゃったな。それじゃ、順番が逆になってしもうたけど、魔力の使い方を教える前に…お昼ご飯じゃな」
「うん。アルザス、お昼ご飯の支度するよ」
「ブガ」
お昼ご飯を食べた後、エン婆から魔力の使い方を教わった。
部屋に戻って忘れずに日記をつけた。
魔法を使うには、魔力を集中念じることで発現できる。そんな簡単にできる事じゃなくて、日々の鍛錬が必要不可欠。大した魔法じゃなかったけど、感覚と勢いで魔法を使うことが出来た。魔力を集中念じる意味はなんとなく分かるけど、魔法の原理って言われてもよく分からなかった。ついさっきまでは…。
コツを掴んだというか、私の頭の中で想像したものが魔力と溶け合って文字と一緒に流れ出る。そして、描いた魔法陣から想像したものが具現化される。原理かどうか分からないけど、そんな風に私の魔法が成り立ってるような感じがした。
魔力量は、個々に差があって、魔力を消費できる量のこと。体調、精神状態、魔法の使用数などで変化してくる。
魔力総量は、魔力量の最大値のこと。最大値を上げるには、具体的な方法は分からなくて、人生経験が大きく関係しているらしい。というか、魔力量もそうだけど、最大値ってどのくらいなのか私自身分からないんだけど。
魔力の強さは、日々の鍛錬と想いの強さ。それだけ。想いの強さって何よ。こういうのは、実際に戦わないと分からないやつね。
最後に、絶対に使ってはいけない魔法を教わった。
何でそんな恐ろしい魔法を教えてくれたのか分からないけど、物事には、良い面と悪い面両方理解しないといけないって…。
人から教わるだけでは理解した事にはならない。
自ら背負って、思い知って、初めて真に理解した事になる。
人の手に余る力は、簡単に周りを破壊して自分を見失うもの。その為には、決してぶれない心を持つこと。と、まぁ話の後半は説教じみた感じだったわ。何と言うか、魔法を使うにあたっての心構えってやつね。でも…今思い返すと、いつになく真剣な表情で、とても大切な事を伝えてくれているのだと感じた。
「さて、と」
空中に指で魔法陣を描く。でも、発光する魔法陣は途中で崩れて消滅してしまう。
地面に描くのは簡単なんだけど、何もない所に描くとなると急に難しくなるのよね。
複雑な魔方陣もそう、魔力が続かない。
背筋を伸ばして、両手で水を掬くう様な姿勢をする。
目を閉じて、両手に意識を集中した。
すると、手の平の上に魔力が集まって、少し宙を浮きながら、丸くて真っ白い飴玉ぐらいの魔力の塊が出来上がる。それを更に大きくしようとすると、形が崩れたり弾け飛んだりしてなかなか上手くいかない。
魔力を一箇所に集中させるのと、球体を維持させるのに神経を使う。魔力を鍛えるのにこれが一番だと、エン婆から教えてもらった方法がこれ。魔法を使用するための集中力、持続力、コントロールする力が鍛えられる。まさに、一石三鳥。
この魔力の塊を、形が崩れない様に出来るだけ大きくする事が出来れば、どんな所でも複雑な魔法陣を描く事が出来るはず。絶対出来る、出来ないと困る、出来なくても諦めないわ、諦めてたまるか。
ランスは、毎日のように朝昼夜の食事の時間と日記をつける時間、睡眠以外は鍛錬に励んだ。日に日に、魔力の塊が大きくなって鍛錬の成果を実感していた。
一ヶ月が過ぎた頃、最近疲れ切った顔をしているランスが心配になって、エンダとアルザスは、ドアの隙間からこっそりランスの部屋を覗いてみた。
「でぇぇぇぇぇぇえええええ」
「ガァァァァァァアアアアア」
目玉が今にも飛び出しそうな、開いた口が塞がらない一人と一匹は、驚くべき光景を見た。
たった一ヶ月しか経っておらんのに、魔力の塊がランスの背丈と同じぐらい大きぐなっているのじゃ。信じられん。
「アルザスや、ちょっと待つのじゃ」
アルザスは、白い光を放つ魔力の塊に魅入られて、堪らず突っ込んで行った。
「あっこら、何やってんのよ馬鹿ぁ!」
集中力が途切れて、球体を保っていた魔力の塊は崩れて飛散してしまった。
怒ったランスから、怒りのチョップを頭へお見舞いされて気絶するアルザス。
「もう、集中してたのにアルザスの馬鹿」
「すまん、すまん。最近疲れた顔しとったから、心配になって様子を見に来たのじゃ」
「エン婆もいたの。アルザスは連れて来なくて良かったわ。そうだ、見てよ」
ランスは、魔力の塊を見よせうと集中するが、途中で力が抜けて膝から崩れ落ち、慌ててエンダが受け止めた。
「あれ、私…」
「ランスや、ちゃーんと見てたよ。あんなに大きぐ出来る様になって、良ぐ頑張ったのじゃ。今日はしっかり休むんじゃ」
半ば強引に寝かしつけられてしまった。まだまだ出来ると思っていたのに全然力が入らない。
暫く寝ている様にと言い残して、エン婆とアルザスは一階へ降りて行った。
魔力を使い果たしたのかな。頭がぼーっとして何も考えられない。
目を閉じたら、直ぐに意識が無くなっていた。




