第6話 モルガナ、初めての人間界ショッピング
「モルガナ~! これも可愛いよ~!」
「あなた、これで何着目ですか」
――休日。
幽子とモルガナはショッピングモールに来ていた。
幽子が「モルガナの服を買ってあげる」という約束を果たしたのである。
モルガナはモールの中をキョロキョロと落ち着かない。
「魔界にはショッピングモール、ないの?」
「そういうわけではありませんが……雰囲気が全く違いますね」
幽子は想像した。
魔界というくらいだから、もっとおどろおどろしい感じなのかもしれない。
「私もいつか、魔界に行ってみたいなあ」
「……行ってどうするのですか?」
「観光したいし、モルガナの通ってる学校も見学したいし」
幽子はモルガナに笑顔を向ける。
その笑顔が、モルガナには眩しく映った。
思わず、目を細める。
「その時はさ、モルガナも隣にいてくれると嬉しいなあ」
「――」
「モルガナ、案内丁寧そうだし」
「……はあ。あなたって時々、天然なのか故意なのか判断に困ります」
「ん?」
「多分、天然でしょうけど」
「何の話?」
「いいえ、なんでも……」
ため息をつくモルガナを、幽子は不思議そうに眺めていた。
服屋に着くと、幽子が早速モルガナを連れて商品を選び始める。
「モルガナ可愛いから何でも似合っちゃいそうだな~」
「契約者って私のこと可愛いと思ってたんですね」
「え? そうだけど、なんで?」
意外そうな顔をするモルガナに、幽子も疑問符が浮かんでそうな顔を返した。
モルガナは幽子の顔をまっすぐに見られず、動きがぎこちない。
「てっきり、私のことは、その……使い魔としての感情しか持っていないものだと……」
少しばかり気まずそうなモルガナ。
しかし、我らが枯尾花幽子が、特に気にするわけがない。
「私、モルガナのこと、大切だと思ってるよ」
「たッ……!?」
「あ、このワンピ可愛い! ちょっと着てみて!」
幽子は赤面するモルガナをスルーして、ワンピースと一緒に試着室に押し込む。
その後は、モルガナが試着している間に幽子が別の服を探し、服の感想を言い合いながらまた試着室に連行するという無限ループ。
エリート悪魔も思わず「いつになったら終わるんですかこれ!?」と悲鳴を上げる羽目になった。
「いや~、大漁大漁」
幽子はホクホクとした顔で紙袋を抱えている。
モルガナが日常生活に困らない程度に買うつもりが、興が乗ってしまったようだ。
二人で並んで帰り道を歩く。
「……あの、契約者。ごめんなさい」
「ん? なんで謝るの?」
「……服って、高いんでしょう。値札を見ました」
モルガナには人間界の貨幣はわからない。
だが、金額の桁を見れば、それがポンと出せる値段でないことは理解できた。
「別に気にしなくていいのに」
「私が気になるんです」
「うーん。じゃあ悪いと思うならさ」
幽子は目を細めて笑う。
「私のこと、『契約者』って呼ぶのやめてほしいかな」
「……気にしてたんですか」
「なんか、壁があるなあとは」
モルガナは、深呼吸をして、意を決したように幽子を見据えた。
声が震える。
初めて言葉を発するかのように、たどたどしく名前を呼んだ。
「――ゆ、ゆう、こ……」
「うん、よくできました」
ちょうど、二人が乗るバス停が見えてくる。
このバスに乗れば、家の最寄りに一直線。
「家に帰ったら、早速もう一回着て見せてよ」
「ま、またやるんですか、あれ……」
モルガナはちょっとげんなりしていた。
――その頃、魔界では。
「敵国の工作員は洗ったか?」
「洗いました」
国家安全保障会議が行われている。
モルガナ・ベルフェリア失踪事件の捜査はまだ続いていた。
「反政府組織は?」
「痕跡なし」
「古代魔術の暴走は?」
「記録ありません」
「他世界召喚はどうだ? 例えば――人間界は?」
「確率的にありえません。モルガナ・ベルフェリアは学生の身とはいえ、高位の悪魔。人間界に召喚するには触媒や正確な詠唱、何より膨大な魔力が不可欠です。魔力の希薄な人間界では不可能。そもそも、転移魔法・召喚魔法の痕跡がない」
「となると、その線も除外か……」
捜査官たちはしかつめらしい顔で真剣に話し合っている。
……まさか、そのモルガナが女子高生に召喚されて、人間界でイチャイチャハッピーライフを送っているとは想像もつかない。
夜、買い物を終えて帰宅し、夕食も済ませた幽子とモルガナは、ファッションショーを行っていた。
「わぁ、やっぱり似合う。可愛い」
「お、恐れ入ります……」
買ったばかりのワンピースに袖を通すと、幽子が喜んでくれるのが嬉しいのか、モルガナの尻尾はゆらゆらと揺れる。
「ですが、服に穴を開けるのも申し訳ありません。人間界の服を着ている間は、翼はしまっておきましょう」
「別に空を飛ぶ必要性もないからねえ」
「……あの、幽子。本当に、ありがとうございます」
「気にしなくていいって」
「いえ、お礼はさせてください。あなたに、これを」
モルガナは自分のもともと着ていた服のポケットから何かを取り出した。
それを、「手を出してください」と幽子に渡す。
「これ、なに?」
「魔石から作ったペンダントです。私が昔、学校の授業で作ったものです。人間界で暮らしていけるほどではありませんが、微量の魔力もあります」
「えっ!? これ、もらっちゃっていいの!?」
「はい。大切にしてくだされば」
「うわぁ! ありがとう、モルガナ!」
幽子は思わずモルガナに抱きつき、バランスを崩した二人が床に倒れ込んだ。
幽子は「えへへ……」と恥ずかしそうに笑い、そっと唇を重ねる。
「これは魔石のお礼ね!」
モルガナはしばらく瞬きを繰り返した。
発言の内容を理解するのに時間を要する。
「……? えっと、幽子の服のお礼に私が魔石を渡して、そのお礼がキス……? これ、一生お返しが終わらなくないですか?」
「終わらなくていいよ。ずっとお返しし合おう」
「……もう。幽子、あなたって人は……」
モルガナは照れくさそうに、でもまんざらでもなさそうに笑っていた。




