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モルガナと契約のキス~3980円で召喚した悪魔と、1日3回のキスをする羽目になった話~  作者: 永久保セツナ


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第5話 魔界、激震――高位悪魔失踪事件

 ……幽子とモルガナが人間界でイチャイチャしている、一方その頃、魔界では。


「モルガナ・ベルフェリアが行方不明?」


「はい。授業中に突然」


「誘拐か!?」


「わかりません。なんか……モルガナさんが突然光って……」


 ――魔界国立・魔法アカデミー。

 モルガナが幽子により強制召喚された学園で、教師に事情を聞かれた生徒はうろたえていた。

 モルガナが授業を受けていた教室には、捜査の手が入っている。


「転移魔法の痕跡は」


「ありません」


「誘拐ではない?」


「少なくとも通常の手段では」


「国家レベルの事件だな」


 捜査官と鑑識は深刻そうな顔をしていた。

 これは、ただの事件ではない。

 捜査官の勘が、そう告げている。


「――外交局の次代を担う、エリート外交官候補生の失踪事件、か」


 しかも、ただ学業が憂鬱になったからという理由ではない。

 成績優秀、素行良好。

 彼女が自ら姿を消す理由が見当たらない。

 かといって敵対勢力との接触もなし。


「もし、敵国が転移魔法の痕跡を残さない方法で誘拐したとしたら、それはそれで厄介ですな」


 鑑識の言葉を、笑い話で済ませられない。

 ――モルガナ・ベルフェリア失踪事件。

 魔界には激震が走っている。

 高位の悪魔が何の前触れもなく、忽然と消えた。


「しかし、生徒の目撃情報では、モルガナ・ベルフェリアは光を放って消えたと言います」


「つまり?」


「――我々の知らない術式です」


「……こりゃ、国家安全保障案件に格上げされるだろうな」


 捜査官は苦い顔をしている。


 モルガナの後輩の証言。


「モルガナ先輩が失踪なんてあり得ません!」


 また、魔法アカデミー教師の証言。


「あの子は優秀だからな。実技以外で落第はない」


「実技以外で?」


「あの子は、『男嫌い』なのです。だから、サキュバス科の実技、男を誘惑することだけは苦手でした」


「ふむ……」


「ですが、まさか実技ができないだけで失踪はないでしょう」


 しかし、それが捜査官の頭に妙に引っかかった。

 ――これが、なにか大きな手がかりになるのではないか?


「ベルフェリア家ってたしか、高位の悪魔を多数輩出している名家ですよね」


「ああ。そこのご令嬢が失踪なんて、ご家族も大騒ぎだろう」


 捜査官としては、身代金目的の誘拐も視野に入れたいところ。

 しかし、やはり転移魔法の痕跡が出てこない。

 未知の魔法で連れ去られたとしたら、誘拐犯はいったい何者なのか?


「仮に誘拐だとしても」


 モルガナの後輩はこう話す。


「モルガナ先輩なら、ひとりで危機を脱出できます」


 彼女の信頼は、随分と厚かった。


 ……だが、魔界の彼らは知らない。


 モルガナが、まさか人間の女子高生に3980円でお手軽に召喚されたことなど。


「モルガナ~! 私と一緒にオカルトサークルの部室に行こうよ~!」


「オカルトサークル……? どういった活動内容で?」


「えっとね、降霊術とか、UFOを呼び出す儀式とか、ツチノコ探しとか、悪魔召喚の研究とか!」


「ろ、ろくでもなさそ~……」


「黒間先輩にもモルガナを紹介しなきゃ!」


 幽子はご機嫌でモルガナの手を引っ張っていく。

 モルガナは渋々と言った態度だが、案外まんざらでもなさそうだった。


「お~、この子がモルガナさんか」


「すごいでしょ! 本物の悪魔ですよ!」


「ん? でも角も翼も尻尾も見当たらないけど」


「えっ?」


 幽子は素っ頓狂な声を上げる。

 彼女の目には、モルガナの悪魔としての姿が見えているからだ。


「周囲の認識を歪める魔術ですからね。契約者以外には普通の人間に見えているはずです」


「一旦魔術解けない? 黒間先輩にも悪魔の姿見せてあげようよ!」


「嫌です」


「えぇ? なんでぇ?」


「……この人、あからさまに研究する気満々じゃないですか。なんか怖いんですけど」


 黒間先輩の背景。

 黒魔術や呪術の書籍が詰め込まれた本棚。

 なにかよくわからないホルマリン漬け。

 フラスコやアルコールランプ。

 ちょっとした怪しげな魔術工房のようになっていた。


「怖くない、怖くない。ちょっと人型の悪魔の翼の付き方が気になってるだけ」


「怖いです。解剖するつもりでしょそれ。手をワキワキさせて近寄らないでください」


 モルガナは幽子の背後に隠れる。

 盾にされた幽子は「いや~、すみません先輩」とヘラヘラしていた。


「まあ、残念だけど、いいものが見られて良かった」


「と言うと?」


「……枯尾花さん、信頼されてるじゃん」


 黒間先輩が口の端を吊り上げて笑う。

 面白いもの、愉快なものを見つけたような顔。


「契約者とは言え、特定の人間には本来の姿を見せる。それってさ――」


「け、契約者! もう用事は済みましたね! 帰りますよ!」


 モルガナは慌てた様子で、幽子を強引に部室から連れ出した。

 今度は、幽子が引っ張られる番だった。


「今日の夕飯、カニクリームコロッケだそうです。お母様が言ってましたよ」


「えっ、ほんと!? 私それ大好きなんだよね」


「私には無意味ですけどね」


「え~、でもさ」


 幽子はモルガナに笑いかける。

 その笑顔に、モルガナは不覚にも心を揺さぶられた。


「栄養(魔力)にはならないだろうけど、味はわかるんでしょ。美味しいとか」


「それは、まあ」


「私はモルガナと一緒にご飯食べるの好きだし、美味しいなら嬉しい」


「……そうですか」


 モルガナは小さく視線を落とす。

 幽子がそれを察することはない。


「本来の食事(キス)もちゃんとあげるからね」


「……」


 モルガナは歩きながら顔を伏せた。

 その耳は、赤く染まっている。

 夕焼けに溶けるような色で、幽子はそれを綺麗だなと思った。

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