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モルガナと契約のキス~3980円で召喚した悪魔と、1日3回のキスをする羽目になった話~  作者: 永久保セツナ


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第4話 モルガナのお昼ご飯

「お昼ご飯がないんです」


 夕食。

 モルガナにキスで生気を分け与えると、彼女はそんなことを言いだした。

 幽子が昼間、学校に行っているので、その間、お腹をすかせながら彼女の帰りを待っているらしい。


「他の人からキスしてもらえないの? お母さんとか家にいるよね?」


「自分の母親の生気を悪魔に差し出そうとするのもドン引きなんですけど……」


 モルガナは「マジか、この人間……」と言いたげな目をしている。

 それはそれとして、彼女にも事情があるようだ。


「魔力提供の契約をしているので、契約者以外からは吸えない制約があるんですよ」


「そうなんだ。悪魔って契約に縛られてて大変だね」


 ブラック企業の社員だって、ここまでがんじがらめにはならないだろう。

「とにかくですね」とモルガナは続けた。


「このままだとお昼ご飯ないの、しんどいです」


「じゃあどうする?」


「契約者と一緒に学校に行きます」


「おお」


「人間界の学校であれば、世界の情報についても収集しやすいでしょうし」


「それはいいけど、どうやって潜入するの?」


「どうにかします」


 どうにか、とは。

 雑な言い方ではあるが、モルガナには考えがあるらしい。

 幽子も特に異存はない。


「モルガナと一緒に学校行けるんだ。楽しみだな」


「……楽しみにしてくださるのですか」


 モルガナは、意外そうな顔をしている。

 そんな彼女に、幽子は笑いかけた。


「モルガナと一緒に学校生活送れたら楽しいだろうなって思ってたんだよね」


「……あなたって本当に奇特な契約者ですよね」


「えへへ、照れますな」


「褒めてませんからね?」


 そんな会話を繰り広げながら、幽子は明日の登校を楽しみにしていた。


 そして翌朝。


「制服とかどうする? 私の予備着てく?」


「いえ、今日はひとまずこのままで」


 モルガナは召喚されたときと同じ衣装である。

 幽子はその服をしげしげと見た。


「……なんですか」


「いや? 今度の休みに一緒に服買いに行こうかなって考えてた」


「人間界の服、ですか……」


「モルガナ、可愛いの似合うし、色々着せ替えしたいな」


「人形ですか私は」


 ぷくっと頬を膨らませつつ、


「……まあ……人間界の衣装には興味なくもないですし……」


 と小さな声でつぶやく。


「ま、まあ、人間の着る服なんて魔術的効果はないでしょうけど? 魔界に帰ったときのネタにはなるでしょうし?」


「やったー。モルガナとお買い物デートだ」


「デっ……!?」


 モルガナは顔を真赤にして目を白黒させた。

 どうやら「デート」という単語に慣れていないらしい。


「けッ、契約者ッ! 滅多なこと言わないでください!」


「? 女の子同士で買い物する時、デートって魔界では言わない?」


「言いませんよ!」


「そうなんだ。勉強になるな~」


「――ッ! い、いいから学校に行きますよッ!」


 モルガナは赤面しながら、幽子の手を引っぱり、家を出たのである。

 二人で通学路を歩き、校門を通り、教室に入った。


「幽子、その子だれ?」


「転校生?」


 学校では、生徒たちが興味深げにモルガナに注目していた。

 対するモルガナは、平静を装っている。


「家庭の事情で、今日は学校の見学をさせていただいています」


「ああ、そうなんですね」


 教師もモルガナの態度と、若干の認識操作魔術で、特に疑問に思っていない様子。

 ホームルームを終えて、教師は引き続き、一限目の準備をする。


「それでは、授業を始めます。モルガナさんは――」


「枯尾花さんの隣に椅子をおいて、一緒に教科書を読んでもよろしいでしょうか?」


「ええ、問題ありませんよ」


 流れで、幽子の隣に座り、一緒に授業を受けた。

 モルガナが肩を寄せると、ふわりと花のような香りが幽子の鼻をかすめる。


「教科書、見せてください」


「いいよ」


 モルガナに貸すと、彼女は食い入るようにテキストを読み込んでいる。

 おそらく、彼女の「情報収集」は既に始まっているのだ。


 授業が終わると、モルガナは席を立って、教師と何やら立ち話をしていた。

 やがて、満足したように戻ってくる。


「なるほど、興味深いですね。この国の政治・経済……」


「さすが外交官候補生。そういうの好きなんだ」


「ええ。スパイが入り込みやすい穴があるのは気になりますが」


 そんなことをサラッと言う。

 おそらく、モルガナが本気を出せば、この国はたちまち陥落するだろう。

 そんな強者の余裕を感じた。


 授業をいくつかこなして、お昼休み。


「幽子~! 一緒に食べよ!」


「うん! モルガナも一緒でいい?」


「いいよ~!」


 机をくっつけて、小さな島ができる。

 モルガナも同席して、お弁当タイム。

 幽子の母が二人分のお弁当を作ってくれた。

 モルガナは食べ物から魔力を生成できないが、怪しまれないのはありがたい。


「幽子~、唐揚げと卵焼き交換してよ~」


「いいよ。はい、あーん」


 幽子が餌付けをするように、友人の口に卵焼きを入れてあげる。

 卵焼きをもらった友人は、お返しに幽子の口に箸でつまんだ唐揚げを近づけた。


「……」


 モルガナは頬を膨らませてムッとしている。

 明らかに嫉妬にかられていた。


「モルガナも唐揚げいる?」


「いりません。私は唐揚げから魔力を摂取できません」


 幽子は「なんかモルガナ、機嫌悪そうだな」と気付いた。


「どしたの、モルガナ――」


 瞬間、塞がれた唇。

 友人たちから、きゃあっと歓声が上がる。


「……モルガナ?」


「お昼ご飯、いただきました」


 そっけない態度で、モルガナは席に戻り、何もなかったようにお弁当を食べ始めたのだった。

 幽子は突然のことに思考が追いつかず、ぼーっとしている。


「ねえ、幽子! モルガナさんってアンタのなに!?」


「彼女!?」


 友人たちの質問攻めに、幽子はどう答えたものか考えた。

 思い悩んだ末に、なんとか答えを絞り出す。


「……契約関係?」


「なにそれ!?」


「うーん、説明が難しい」


「義理の姉妹です」


 モルガナの答えに、友人たちは「禁断の関係じゃん……!」と盛り上がったという。

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