光学密度
クールタイムが始まってから、一時間が経過した。
「ゲーム再開デス! 残る参加者は五名デス!」
相も変わらず無機質な合成音声が、街一帯に響き渡った。
雄生は翔也を連れ回しつつ、敵を探す。その道中で彼が出会ったのは、テンガロンハットを被った中年男性だった。
「……アンタも、ゲームの参加者か?」
「この街にいるのは、参加者とゲームマスター、そして観客である抜山蓋世だけだ。つまり、俺たちは敵同士ってわけだな。まぁ一戦交える前に、少しだけ駄弁ろうか。あんちゃん、名前は? なんのためにここに来た?」
「俺は御堂雄生。生き別れた妹と再会するためにここに来た」
「そうかい。妹さんも良い長男を持ったモンだな。俺は綾川長治――多額のベーシックインカムの確約された世界を実現するためにここに来た」
「なるほど……切実な想いでゲームに臨む奴もいるんだな」
このゲームに参加するのは、ほたるのように屈折した望みを持つ者だけではない。少なくとも、この二人は真剣な目的があって参戦した身の上だ。
「愛を歌う音楽家ですら、売名に大金を捧げている。評論家や人権活動家だって資金が要る。正義を為すにも、不正義を為すにも、金は必ず介入する」
「否定はしない。オレも大金があれば、世界中の人間に妹を探させるからな」
「話が早くて助かる。だが俺が望んでいるのは、そんな大それた金額じゃないんだ。収入よりも収入源の方が要となる。持続可能性がなければ、どんな大金も失われる可能性があるからだ」
長治の語る理念は、いずれも理に適ったものだった。翔也は話を半分も理解していないが、雄生は感心するように相槌を打っている。さりとて彼らには、悠長に会話を続ける猶予など残されていない。
「さぁ雄の字。そろそろ、始めようか」
そう呟いた長治は、自らの掌に眩い光を集めた。今までのラディカルとは打って変わり、彼の曲解は極めて単純明快だ。
「アンタの曲解の対象、光学密度だな」
「その通りだ。だが一目でわかるほどシンプルな曲解には、余程の搦め手がないと対応できないだろう。こんな風に!」
突如、長治は光線を発射した。それを一身に浴びた雄生は、慌てて再生を試みる。一発、二発、そして三発。何発もの光線が、何度も雄生の身を焼いていく。周囲は凄まじい爆炎に呑まれており、両者の付近にいる翔也はいつ巻き添えを食ってもおかしくない現状だ。して、翔也自身も、幼いながらにそれを理解している。
「美美! 降参! ぼく、降参する! メディカル・ポッドに送って!」
彼は必死に叫んだ。直後、彼の体は光を帯び、粉のように変化していった。
「谷村翔也、自主降伏。残る参加者は三名となりマス」
その場に響いたのは、いつもの合成音声だった。何はともあれ、これで無垢なる小児を巻き込む心配はない。
「あのボウズはもう転送されたな。これで、全力を出せる」
その一言は、長治がまだ本気を出していなかったことを端的に表していた。今度は紫色に輝く光線が放たれ、雄生の全身がただれていく。雄生はいつものように再生を試みたが、細胞を修復できない。
「……今の光、紫外線か」
「ご名答。今、楽にしてやろう」
「ナメんじゃねぇ!」
彼とて、防戦一方ではない。雄生は瞬時に間合いを詰め、猛烈なラッシュを繰り出す。長治は退きつつも、紫色の光線を乱発していく。雄生は重傷を負い、長治は疲弊していく。事態はまさに泥沼を極めていた。
その時である。
「そこまでです」
激しい闘争を繰り広げる両者の間に、トレンチコートを着た美男が割って入った。同時に、長治は急激な疲労に見舞われ、その場で崩れ落ちた。
「……アンタが夢宮彼方か」
「ええ、いかにも」
「翔也がオレに言ってたんだ。アンタにだけは気をつけろって」
いよいよ、雄生は強敵と相まみえた。




