インターバル
ラディカル・シティ一帯に、スピーカーを通した合成音声が響き渡る。
「三名の脱落者が出たため、一時間のインターバルを設けマス。残る参加者は、五名となりマス。インターバル中の攻撃行為は、反則とみなしマス」
三名脱落するたびに、一時間のクールタイム――それがこの街の掟だ。一先ず、これで雄生たちが身を隠す必要はなくなった。さっそく、彼らは雑木の陰を出る。ほたるに声をかけるのは、雄生だ。
「ずいぶん強いんだね、お嬢さん」
それが彼の第一声だ。ほたるは冷たい眼差しで振り向き、こう切り返す。
「用件は? さっきの戦いでかなり負傷したから、一刻も早くメディカル・ポッドを使いたいんだけど」
クールタイムはあくまでも一時間だけである。その間に傷を治癒しておくことは、至極合理的な判断だろう。単刀直入に本題に入らなければ、雄生は彼女を飽きさせることとなってしまう。
「アンタは何故、このゲームに参加したんだ? このゲームについて、そして参加者について、色々と知っておきたいと思ってな」
「わたしは、全人類のライフラインを掌握したい」
「……はい?」
彼が耳を疑ったのも無理はない。ほたるという少女の抱えている野望が、あまりにも屈折したものだったからだ。
「お姉ちゃん。ライフラインって、何?」
翔也は訊ねた。彼の曲解のせいなのか、ほたるの表情は少し和らぐ。
「ボウヤ。ライフラインというのはね、人が生活を営めるようにするもののことだよ。子供だったら、お父さんやお母さん。大人だったら、会社がライフラインだね。それがないと、人は生きていけないから」
それは懇切丁寧な説明だった。さりとて、その内容を理解するには、翔也はあまりにも幼い。
「じゃあ、地球はライフライン?」
「……違うね。ライフラインっていうのは、電気とかガスとか、あるいは水道や公共物に使われる言葉だから」
「うーん、よくわからないや」
何やら彼がライフラインの概念を理解するのは、遠い未来の話になりそうだ。しかし今重要なのは、ライフラインと云う言葉の定義ではない。
「アンタは何故、全人類のライフラインを握りたいと思っているんだ?」
そう訊ねた雄生は、怪訝な顔をしていた。それが大きな野望であることは理解できても、その動機は想像に難い。そこでほたるは深呼吸を挟み、口を開く。
「幼い頃、なぜ親に逆らえなかったと思う? ライフラインを掌握されていたから……でしょ?」
「そう言われてみたら、そうだけど……」
「わたしが全人類のライフラインを掌握すれば、誰もわたしに逆らえなくなる。わたしの生活が豊かになる。わたしは自分のQOLを高めるために、このゲームに参加したんだよ」
論理としては筋が通っている。さりとて、雄生の直感は共感を拒む。
「ふざけるな! アンタの身勝手な都合で、この世界をめちゃくちゃにしようってのか!」
「それが嫌なら、わたしに勝たせないことだね。じゃあわたし、そろそろ行くから。美美、おいで」
「待て! ほたる!」
この瞬間、彼は義憤に駆られていた。もっとも、インターバルの最中である今は、眼前の悪人に手を上げることなど許されはしない。
その場に美美が現れる。
「平沢ほたるの転送を開始しマス」
彼女がそう告げた途端、ほたるは光の粒子となり始めた。雄生は握り拳を震わせ、誓いの言葉を口にする。
「平沢ほたる! アンタにだけは、絶対勝たせねぇからな!」
無論、強敵はほたるだけではないだろう。まだ彼が出会っていない二名の参加者が、彼女に劣るなどという確証はないのだ。
「お兄ちゃん、頑張って。この街の人たち、皆強いから」
「おいおい、ほたるより強い奴がいるのかよ……」
「うん。特に『夢宮彼方』って男の人には、気を付けて」
それが翔也の警告だ。少なくとも、この少年は今回以前にも、このゲームに参加したことがある様子だった。




