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ラディカル・シティ  作者: やばくない奴
雄生、参戦
5/20

弾性と間合い

 雄生(ゆうき)たちは、引き続き雑木の陰で息を潜めた。まだ平沢(ひらさわ)ほたるの曲解の正体がわからない以上、下手を打つことだけは避けなければならない。少なくとも、彼女が只者ではないことだけは確かだ。


 そんな彼女を襲ったのは、やや筋肉質な少女だ。

「しゃぁ!」

 この少女は駆け込んできたのではない。まるで、無から発生したかのようにほたるの眼前に現れたのだ。その引き締まった腕で繰り出されるアッパーカットに、ほたるは千鳥足になる。しかし彼女は口から流血したまま、目を赤く発光させる。


 彼女の敵対者の身に、異変が起きた。


 この時、敵対者はほたるを更に殴ろうとしていた。しかし彼女が腕を曲げようとしても、腕はすぐに定位置に戻ってしまう。唖然とする彼女に対し、ほたるは言う。

柳田叶得(やなぎだかなえ)。きみが降参できるように、表情筋だけは『動かせるように』しておいたよ。まだ、痛い目を見たいかな?」

「ふざけるな、ボクは戦士だ。こんなことで折れはしない!」

「おや? まさかこの状況で、わたしに勝てるとでも?」

 ほたるは自信に満ち溢れている。彼女は左手で銃を象り、親指と人差し指に輪ゴムをセットする。直後、その指先から発射された輪ゴムは、叶得の身を容赦なく貫く。叶得は腹部から勢いよく出血するが、依然として体を動かすことができない。


 この光景を前に、雄生は察する。

「弾性だ……」

「男の人? どう見ても女だよ?」

「そうじゃない。弾性とは、変形したものが元に戻ろうとする性質だ。だから輪ゴムも脅威になるし、筋肉もバネのように定位置に戻ろうとするんだ」

 そう――それが、ほたるの曲解の正体だった。


 一方で、叶得も一方的に攻撃を受けるばかりではない。彼女は瞬間移動のような挙動を繰り返し、ほたるが発射していく輪ゴムを次々とかわしていった。されど、彼女の体勢は変わらない。同じポーズのまま、直立する座標だけが切り替わる。そしていずれの移動先でも、叶得は真っ直ぐにほたるの方を見ているのだ。


 ほたるは言う。

「きみの曲解の対象は……『間合い』だね」

「ああ、そうだ。よってキミの輪ゴムも、もう通用しない」

「でも、きみは動けない」

 一見すれば、叶得はかなり不利な状況に置かれている。今の彼女にできることは、間合いを切り替えることだけ――少なくとも、ほたるはそう確信していた。


 直後、叶得は全身を力ませ、その身の節々の血管を浮き上がらせた。彼女の体の節々からは、鮮血が勢いよく飛び散っていく。

「な、何をしてるの?」

「筋繊維をぶっ壊した。これで筋肉が硬くても関係ないな!」

「なんて、無謀な……!」

 この時ばかりは、流石のほたるも困惑した。間合いの角度を俊敏に切り替えることにより、叶得は全方位から彼女の身に打撃や蹴りを加えていく。

「ちっ……こうなったら根競べか」

 そう呟いたほたるは、再び目を発光させる。直後、彼女の皮膚は硬化し、叶得の猛攻によるダメージを吸収していった。されど、それで完全に傷を防げるわけでもない。文字通り、これは根競べなのだ。全身から失血した叶得は、己の意識が遠のいていくのを実感していた。その呼吸も荒くなっており、強気なのは目つきだけになっていた。それでも、彼女は闘志を捨てはしない。

「ゼェ……ゼェ……」

「横隔膜が硬化している今、上手く息ができないでしょ? きみは、ここまでだよ」

「だったら、横隔膜の繊維も断裂させるまでだ!」

 おおよそ正気の覚悟ではない――その場にいる誰もがそう思った。叶得は更に力み、腹部からも出血した。当然ながら限界を迎えた彼女は、硬い体勢のままその場に倒れた。街中のスピーカーから、美美(メイメイ)の声が響き渡る。

「柳田叶得、平沢ほたるの曲解により戦闘不能デス。転送を開始しマス」

 それから叶得の体は、光の粒子と化していった。

挿絵(By みてみん)

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