星の守り人
同じ頃、雄生と龍造の周囲は爆炎に包まれていた。頻りに落ちる雷が、その業火を一層強くする。何度も感電した雄生は、無理な再生を繰り返したことによりおぼつかない足取りになっている。その目の前では、あの宿敵が依然として余裕に満ちた表情をしている。
「お前の芸当には、心底食傷気味だァ。自らの肉体を修復する以外には、何もできないのかァ?」
「だが、アンタの体力だって有限だ」
「ククク……フハハハハ! それはいい。俺とお前、どちらが先に倒れるか……今からそれを教えてやろう!」
龍造の目が赤く光り、何発もの落雷が発生する。その全ては一斉にして、雄生のたった一つの肉体を襲う。
「ゼェ……ゼェ……見えねぇ。何も、見えねぇ!」
肉体の老化が進んでいる雄生は、視力が鈍りつつあった。それを見抜いた龍造は、薄ら笑いを浮かべている。
「すっかり白い髪になったなァ、雄生。お前が後、何回まで再生できるのか……見ものだなァ。本来、人が雷に打たれる確率は百万分の一と言われているが――そこに可能性がある限り、俺はその希少な事象を引き起こせる」
「能書きを垂れるな……下衆が。アンタが一番必要としているのは、そんな大層な力じゃない。アンタには、愛が足りねぇんだ!」
「ククク……微弱な電気信号とホルモン、そして受容体を神格化するなァ。人間は愛するために生まれたのではない……進化の副産物として、たまたま愛する機能を持って生まれてきたんだァ」
一発、二発、そして三発。落雷は、容赦なく雄生の身を焼いていく。意識が遠のいている彼は、歪む視界を介して世界を見ている。直後、彼の足取りは不安定になった。彼がいつ倒れてもおかしくないことは、素人目でも明らかだ。
そこに姿を現すのは、雪吹のホログラムだ。
「諦めないで、お兄ちゃん!」
例え肉体が失われようが、その在り方が変わっていようが――妹は妹だ。彼女の声援により、雄生は我に返る。
「そうだな、雪吹。お兄ちゃんは、まだ倒れるわけにはいかないな!」
そう返した彼は、握り拳を震わせていた。直後、その場には豪雨が降り注ぎ、ビル群を包み込んでいた爆炎が収まっていく。雄生だけではなく、雪吹もまた目を赤く発光させている。何やら、二人の曲解がシナジーを生んだようだ。
この状況を、龍造は冷静に分析する。
「ホメオスタシス……それは生物に限った機能ではない。ガイア理論においては、地球そのものが近似したシステムを持っているとされている。今この火災に抗うように雨が降ったのも、お前がそのシステムを強化したからだァ」
「多分そうなんだろうな。オレは自分だけでなく、他人や器物のホメオスタシスも曲解してきた。今は、その対象が『地球』になっている」
「……加えて、雪吹がその事象の起こる確率の分母を小さくした。ホメオスタシスと分母――そんな夢のような組み合わせを実現したお前たちは、やはり兄妹のようだな」
曰く、雄生の曲解の適用範囲が、地球規模にまで及んだという話だ。彼がテロメアを浪費してきたことは、決して無駄ではなかった。成長を重ねた末に、彼は星の守り人に相当する領域へと踏み込んだのだ。
「オレ一人では、まだコントロールが難しい。だけど、雪吹と一緒なら、できる!」
そう言い放った雄生は、フィンガースナップをした。直後、再び雷鳴が響き渡るが、その雷は龍造の身に直撃した。龍造は黒焦げになったコートの裾をはたき、満身創痍の体を奮い立たせる。
「まったく、末恐ろしい兄妹だァ。だが、俺を倒したところで雪吹は肉体を取り戻せない。どうだ? 雄生、雪吹。俺と共に、この星の頂点捕食者にならないかァ?」
彼はそう訊ねたが、雄生は応じない。
「ならない。オレはただ、雪吹と一緒にいたいだけだから」




