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時空の狭間

 一方、雄生(ゆうき)は路上にて、龍造(りゅうぞう)と邂逅した。かつてない緊張感を噛み締め、彼は身構える。そんな彼の身に、雷が直撃する。

「……!」

 雷に打たれた者は、その体内にまで電流が回れば、時に心停止に繋がることもある。して、眼前の男はその可能性を曲解できる。さりとて雄生は、ホメオスタシスを極めた男だ。その驚異的な再生能力により、彼は何とか立ち続けている。

「今度は、こっちから仕掛けるぞ!」

 そう叫んだ雄生は、即座に間合いを詰めた。それから彼は殴打や蹴りによる猛攻に移るが、その一撃一撃はことごとく急所を外してしまう。

「距離を縮めるなァ、雷を落とせないだろう」

 そう言い放った龍造は、雄生の金的を勢いよく蹴り上げた。激痛を覚えた雄生は、ほんの一瞬ほど隙を許してしまう。そこで龍造は彼を突き飛ばし、再び雷を落とした。雄生はかろうじて意識を保っているが、それがいつまで続くのかは定かではない。気絶にまで追い込まれたら、自らの曲解が解ける――彼はそんな危険を背負っているのだ。ここで一つ、龍造は妙なことに気づく。

「二度も落雷に耐えるとは、悪運の強い奴だァ。雪吹(ふぶき)……お前が確率に介入したのかァ?」

 可能性を操れるのは、この男だけではない。雪吹もまた、分母を曲解するラディカルだ。その事実を噛み締め、雄生は勝ち筋を見いだす。

「ああ、オレは一人なんかじゃない。オレの側には、いつだって雪吹がいる!」

 そう叫んだ彼は、再び右ストレートを繰り出した。今度は、相手の人中にその一撃が命中する。

「くっ……!」

 思わぬ一撃に、龍造は吐血する。無論、彼も防戦一方には徹しない。直後、雄生の存在は不安定になり始めた。その身にはノイズが走り、彼の存在は周囲の時空ごと崩壊する。

「こ、これは……一体……!」

 その不可解な現象を理解できないまま、彼はその場から消滅した。



 雄生が目を覚ますと、そこは無数の泡が浮かび上がる異空間だった。各泡に映し出されているのは、彼のよく知る世界の様相だ。狼狽する彼の前に現れるのは、雪吹である。

「……ここは、時空の狭間だよ。お兄ちゃん」

「時空の狭間? オレは一体、何をされたんだ!」

「龍造が逆因果律を介し、過去のお兄ちゃんを殺したんだ。だから今のお兄ちゃんは矛盾した存在となり、時間軸から弾き出された」

 一見、それはあまりにも荒唐無稽な話だった。されどそれを眉唾と断ずれば、今起きている現象に説明はつかない。おそらく、龍造は本当に過去の雄生を殺したのだろう。

「ごめんな、雪吹……オレ、仇を取れなかった」

「諦めるのは、まだ早いよ」

「そうか? オレがあの時空に戻ったところで、タイムパラドックスは解消されないんだろ?」

 雄生がそう思ったのも無理はない。事実として、さっきまで自分が戦っていた時間軸において、彼はすでに死人なのだ。それでもなお、雪吹は諦めようとはしない。

「今から、お兄ちゃんを転送するよ」

「それ、世界は無事で済むのか?」

「雪吹が分母を変えればいい。あの世界がお兄ちゃんを受け入れる確率――その分母を」

 直後、異空間は眩い光に包まれ、勢いよく崩壊した。



 こうして、雄生は元の時間軸に戻った。無機質なノイズと共に戦線復帰した彼を見て、龍造は驚く。

「何故、お前が生きている?」

「兄妹愛の力って言ったら、納得するか?」

「まさか。できるわけがない」

「アンタはそう言うと思ってた! 家族を単なる命の営みの部品としか思っていないアンタには、家族愛が時に理屈を超えることなんかわからないだろうよ!」

「やれやれだァ。それなら、もう少しだけ本気を出すとするかァ」

 今までの龍造は、まだ全力ではなかった。数瞬の沈黙が訪れ、両者は互いを睨み合う。彼らは円を描くように、ゆっくりと歩み始める。攻撃を仕掛ける好機を狙いつつ、彼らは戦況を読み合うばかりだった。

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