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足止め

「私たちが隙を作ります。雪吹(ふぶき)、兄を夜露(よつゆ)さんのもとに転送してください」

 そう告げた彼方(かなた)が、メスを構えて駆け出す。彼は一心不乱に斬撃を繰り返し、果敢に眼前の絶対王者を傷つけていく。


 それに続き、海斗(かいと)が両手の拳を交互に突き出し、風圧によるラッシュを加える。

「はーっはっはっは! 俺様の攻撃に、怖気づいたか!」

 蓋世(がいせい)の身は微動だにしないが、それでも足止めくらいはできている。


 次は、香琉(かおる)の番だ。

「香琉ちゃんが生まれたのも、苦しんだのも、全部あんたらのせいだったんだ!」

 彼方が伏せたのを確認し、彼女は機関銃を乱射する。銃弾はいずれも、あの大男に致命傷を負わせるには至らない。


 直後、蓋世の目の前には叶得(かなえ)が現れ、俊敏なジャブの応酬が繰り広げられた。

「ボクに因縁があるとすれば、キミに二回も惨敗したことかな」

 彼女は何度も間合いを切り替え、その都度殴打や蹴りを繰り出した。無我の境地を使いこなしている彼女は俊敏で、かつ最適化された動きを実現している。


 続いて、長治(ちょうじ)が光線を乱射する。

「俺たちは、あの若造に落とし前をつけてもらうんだ。その邪魔をするなら、お前さんを倒さなければならない」

 その一発一発は、着実に蓋世の動きを封じていた。


 無論、あの抜山蓋世(ばつざんがいせい)が、そう容易に防戦一方になるわけでもない。

「フンッ!」

 彼は回転蹴りを繰り出し、五人を振り払った。それから彼は、先ほど雄生がいた方に目を遣る。転送が終わっているのか、そこに雄生の姿はない。蓋世は深いため息をつき、大声を張り上げる。

「五人がかりの時間稼ぎとは、実に姑息極まりないッ! 雄生をあの男のもとに送ったところで、何になる? 見ろッ! 空は今、曇天だッ! 夜露龍造(よつゆりゅうぞう)が可能性を曲解すれば、いつ好きなところにでも雷を呼び出せるッ!」

 あれだけの猛攻を受けてもなお、この男はかすり傷しか負っていない。その絶望感たるや、まさに鼠が鷹に掴まれた時のそれだ。人類とて、自然界の摂理を完全に逸脱したわけではない。抜山蓋世と云う男は、明確にアルファ――つまりは弱き者を蹂躙する存在。そんな彼は先ず、香琉の両耳に掌を添えた。そして彼が両手に力を入れるや否や、彼女の頭部は勢いよく潰れた。彼女は骨を、そして脳を粉砕されたのだ。そんな技を加えられれば、香琉に生き延びる術はない。彼女は無造作に倒れ、二度と目を覚ますことはなかった。

「さてと、次は誰から片づけるか」

 蓋世が周囲を見渡す。その様は残された四人に、かつてない恐怖を味わわせた。されど、彼らからは安全な道が絶たれている。そこには逃走経路さえ残されていない。

「図に乗るな! 蓋世!」

 そう叫んだ海斗が、遠距離からのラッシュを繰り出した。確かに間合いさえ詰めなければ、あの巨体から繰り出される技をまともに受けることもないだろう。そこで蓋世はすぐ近くに落ちていた廃車を持ち上げ、それを勢いよく投擲した。錆びた車体は、前方の男の身に容赦なく迫りくる。海斗はすぐさま曲解を発動し、廃車の動きを止めた。空気圧により、彼は物体の動きを止められる程の境地に至ったのだ。しかしそんな彼の間合いには、すでに蓋世が潜り込んでいた。

「かはぁっ……!」

 突如繰り出された猛烈なアッパーカットにより、海斗は顎を粉砕された。この時、頚椎も無残に砕け散った。そのまま宙を舞った彼は、アスファルトに勢いよく叩きつけられる。こうして、彼もまた命を落としたのだった。

「次は貴様だッ! 夢宮彼方(ゆめみやかなた)!」

 その言葉は死刑宣告に等しかった。彼方は腹を括り、両手にメスを構えながら間合いを詰める。


――その直後、彼が気付いた時には、その首が徐々にずれ始めていた。更にその背後には、手刀に返り血を帯びた蓋世の姿がある。


 やがて首が落ちた彼方は、その場で絶命した。今この場に残っているプレイヤーは、後二人――叶得と長治だけだ。

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