真実
雄生の慟哭に呼応するように、その場には不安定なホログラムが現れる。それは美美と雪吹の姿に頻りに切り替わる。その身にはノイズが走っており、周囲にはスクリプトのような文字列が浮かんでくる。この異様な状態で口を開くのは、雪吹の姿に定着したホログラムだ。
「プレイヤーの皆、今すぐラディカル・シティの出入り口に集まって!」
その声はスピーカーからも流れ、反響した。雄生は上着の袖で目元を拭い、即座に立ち上がる。
「わかったよ、雪吹」
さっそく、彼はその場から駆け出し、エレベーターに乗った。塔の中を下りつつ、彼は覚悟を決める。この先、実の妹の口から何が語られるのか――それがまだわからない以上、雄生は腹を括らなければならないのだ。
それから約十分後、ラディカル・シティの出入り口には六人のプレイヤーが集結した。彼らを仕切るのは、ホログラムと化した雪吹である。
「これから雪吹が話すのはね、この街のゲームマスター……夜露龍造の真実だよ」
その一言に、彼らはどよめく。最初に質問を投げるのは、彼方だ。
「君が例の……御堂雄生さんの妹ですか?」
「うん。雪吹が、お兄ちゃんの妹だよ。そして今は、ラディカルを増やす装置の生体ユニット。夜露龍造は可能性を曲解するラディカルで、皆の運命を操ってきたんだ」
「運命を……?」
彼が困惑したのも無理はない。曰く、この場にいる全員が、たった一人の男に運命を翻弄されてきたとのことなのだから。周囲が動揺を見せる中、雪吹は話を続ける。
「彼方さんの恋人が植物状態になった。香琉さんはいじめられて、高校中退にまで追いやられた。翔也くんは両親に捨てられたし、長治さんは若くしてお母さんを失って生活に苦しんだ。何から何まで、夜露龍造のせいだよ」
無論、その説明だけでは結びつかない点がある。それを指摘するのは、長治だ。
「それは妙な話だな。俺が刑務所に入ったのは、何十年も前のことだ。その当時から、あの若造が俺たちの運命を操っていたというのか?」
そう訊ねた彼は、怪訝な顔をしていた。して、雪吹はその答えを知っている。
「逆因果律――それは未来が過去に影響を与えるという概念。夜露龍造は、逆因果律に干渉することによっておじさんの運命を変えたんだよ」
一見、それは荒唐無稽な話だった。さりとて、彼らは龍造の力の片鱗を知っている。あの抜山蓋世に全てを与えたのも、平沢財閥の天下を築き上げたのも、他ならぬ龍造自身だったからだ。
叶得は問う。
「キミは何を曲解するラディカルだったんだ? 生体ユニットに使われるくらいだから、キミにも何か曲解があるのだろう」
その質問にも、雪吹は淡々と答えていく。
「雪吹は分母を曲解するラディカルだよ。だから装置に組み込まれて、ずっとラディカルが発生する確率の分母を小さくしてきたんだ」
「メディカル・ポッドの方は、どういう原理なんだ?」
「龍造の娘、華憐ちゃんがセントラル・コンピューターの生体ユニットにされているね。華憐ちゃんは再生を曲解するラディカルだから、今まで皆の傷を癒してきたんだ」
実の娘さえも道具として扱う――その狂気は、その場にいる者たちの背筋を凍らせた。
「何それ、毒親? ありえない!」
そう叫んだのは、香琉だった。彼女に続き、海斗も言う。
「我々の共通の敵が決まったな! これから、夜露龍造を倒そうではないか!」
これまで散々争ってきた彼らも、この瞬間ばかりは意気投合する。
「倒しましょう……あの男を」
「最高の闘争になりそうだ!」
「お見舞いしてやろう、俺たちの意気地を」
これから最終決戦を迎える――雄生はそう確信した。
その時、彼らの前に抜山蓋世が現れた。
「貴様らの相手は、この己だッ!」
そう叫んだ彼の威厳に、六人は生唾を飲み込んだ。




