兄妹の再会
数時間後、雄生はメディカル・ポッドの中で目を覚ました。彼がポッドを出ると、すぐ目の前には龍造がいた。
「優勝おめでとう、雄生」
「……さぁ、約束は約束だ。雪吹に会わせてくれ」
「お前の妹はこの街にいる。ついてこい」
龍造は雄生を連れ、病院を出る。彼らが赴く先は、街の中央にある巨大な塔だ。歩みを進める最中、雄生は悪寒を覚える。彼の直感は、望ましくない再会の予兆を嗅ぎつけているのだ。
それからしばらく歩き続けた末に、彼らは塔に到着した。その全長は、八百メートルくらいはあるだろう。
「この塔はラディカライザ――数多の人間をラディカルに目覚めさせる装置だァ。この塔の最上階に、お前の妹がいる」
「わかった。マスターキーを持っているのは、おそらくアンタだろう。案内、任せたぞ」
「いいだろう。感動的な再会を約束しよう」
キーカードにより、塔の出入り口が開かれる。内装は広いが、不思議と高級感はない。無機質な合金の隙間が、緑色に発光している――ただそれだけの空間だった。龍造はキーカードをかざし、エレベーターの扉を開く。それから二人は、数十秒の時を密閉空間の中で過ごした。その間、彼らは会話を交わさなかった。龍造は含みのある笑みを浮かべるばかりで、一方の雄生は緊張感を噛み締めていたからだ。
やがて二人は、最上階に辿り着いた。無数の管やワイヤーの通っている部屋の中央には、水槽がある。その中身は、配線を繋がれた状態で浮かぶ文字通りの「心臓」であった。
「なんだよ……これ……」
思わぬ光景に、雄生は狼狽した。その様を前にして、龍造は嗤う。
「ククク……ハハハハハ! 言っただろう? 感動の再会を約束すると! この部屋はラディカライザのコア――その生体ユニットがお前の妹だァ!」
「アンタは……なんてことをしやがった!」
「案ずるな。家族を失ったのはお前だけじゃない。俺の娘――華憐もまた、このゲームの礎になった。アイツは『再生』を曲解するラディカルだったからなァ……メディカル・ポッドのセントラル・コンピューターの部品としては、極めて優秀だったァ!」
こともあろうに、この男は自らの娘さえも道具として見ている。飽和するような嫌悪感に掻き立てられ、雄生の思考がフリーズした。それから数秒の沈黙を挟み、雄生は眼前の極悪人の胸ぐらを掴む。
「オレの妹に然り、アンタの娘に然り……アンタは、家族をなんだと思ってやがる!」
「家族なんてモンは所詮、生命の営みの中で生じる共同体に過ぎない。事実として、様々な野生動物が子殺しを行っている。そして、その全てが進化を促しているという話だァ」
「ふざけんじゃねぇ! 野生動物の本能と、アンタの理性は違うだろう! それとも、アンタが人間じゃないのか? どうなんだ、おい!」
必死に声を張り上げた彼は、目に涙を浮かべていた。彼の悪寒は的中した。案の定、兄妹の再会の時は、最悪な形で訪れたのだ。
「さぁ、帰るぞ……雄生。お前の望みは叶った。俺が叶えた。それで、十分だろう」
「……だ」
「ん? なんて言った?」
「次の望みは、雪吹を元の体に戻すことだ!」
そう宣言した雄生は、憎しみに満ちた眼光をしていた。そんな彼の怒りも、龍造は一笑に付す。
「悪いなァ。叶えられる望みは、理論上可能なことだけだァ。この状態の雪吹を、どうやって元に戻すんだァ? 例えメディカル・ポッドを使っても、失われた脳機能まで復元することはできないだろう」
「そっ……そんな……!」
「つまりは記憶も復元できないってワケだァ。お前の妹は、未来永劫……生体ユニットとして生き続ける」
今回告げられた真実は、あまりにも残酷なものだった。雄生は膝から崩れ落ち、大声で慟哭する。そんな光景を前にしてもなお、龍造は邪悪に嗤うばかりであった。




