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生死の狭間

「インターバルが終了しマシタ。各プレイヤーは、ただちにゲームを再開してクダサイ。残るプレイヤーは、後二名デス」

 いつもの合成音声が、街中のスピーカーから響き渡った。病院の前では、雄生(ゆうき)彼方(かなた)が互いを睨み合っている。

「オレは妹のため、アンタは恋人のため……だな」

「ええ。本気で行かせてもらいますよ」

「ああ、手加減は無しだ!」

 戦闘開始だ。メスを構える彼方を目掛け、雄生は一気に駆け出す。両者の目は赤く発光しており、彼らがすでに何らかの形で曲解を発動していることがうかがえる。雄生は俊敏なラッシュを繰り出し、眼前の強敵を退ける。彼方はメスを振り回し、彼の身に切り傷を負わせていく。その切り傷はすぐに修復されるが、その都度新たな傷が刻まれる。両者ともに、一歩も譲らない戦いだ。

「前にも忠告したはずですよ? 急速な細胞分裂を繰り返せば、テロメアを著しく消費すると」

「知ったことか! オレは、この闘争を、最後の闘争だと思っている! アンタにさえ勝てば、オレは雪吹に会えるんだ!」

「奇遇ですね。私も同じことを考えていましたよ。この死闘を終えれば、私の恋人が記憶を取り戻すと」

 ラッシュと斬撃の応酬は、舌戦の最中でも止まらない。何発ものジャブが繰り出され、何発もの斬撃が行われる。両者共に、全身が血に染まっている。それが本人の血だけなのか、あるいは返り血も混ざっているのか――それは定かなことではない。血液と汗の弾け飛ぶその場所は、まさしく戦場そのものであった。


 この時、雄生の脳内では、大量のアドレナリンが分泌されていた。そこにノセボ効果も加わることで、彼の心臓の鼓動は徐々に加速していく。一方で、彼方もまた肩で息をしている有り様だ。ホメオスタシスを乱された彼は、血流が悪化しているのだ。されど彼方には、自らの曲解だけでほたるを殺した前例がある。

「あと数秒もすれば、君は力を使い果たし……死に至ります」

 案の定、言葉による誘導が始まった。

「はっ……見え透いたブラフだな! アンタ、相当焦っていると見た」

「仮にブラフであっても同じことです。君が死を意識した瞬間、君の体はそれを選びます。ほたるがその道を辿ったように」

 彼方がそう告げた直後、雄生の身に異変が起きた。視界が崩壊し、その全身から力が抜け始めたのだ。

「まずい……このままじゃ……」

 そう言いかけた彼は、その場に崩れ落ちた。



 雄生が気付くと、そこは真っ白な空間だった。すぐ目の前には、あの少女が立っている。

「お兄ちゃん、死なないで」

――御堂雪吹(みどうふぶき)だ。雄生は唖然とし、周囲を見渡す。この空間には、一組の兄妹以外何も存在していない。

「雪吹……」

 今の彼に捻り出せる言葉は、その一言だった。そんな彼の手を両手で包み込み、雪吹は微笑む。

「痛みなんか信じなくていい。雪吹を信じて」

「なぁ、雪吹。これは、夢なんだよな?」

「いいから、雪吹を信じて!」

 彼女の叫び声に呼応するように、空間は勢いよく崩壊した。



 それから雄生は目を覚ました。突如起き上がる彼を前に、彼方は動揺を隠せない。

「な、何故……あの状況から、どうやって……」

「兄妹愛、ナメんな。雪吹は、今もオレを待っているんだよ!」

 そう断じた雄生は、渾身の右ストレートを繰り出した。その拳は彼方の人中――人体における急所に命中する。

「おめでとうございます。これで、君の望みが叶うことでしょう」

 相手の勝利を祝福し、彼方は倒れた。勝負の結果を報告するのは、美美である。

夢宮彼方(ゆめみやかなた)、御堂雄生の攻撃により戦闘不能デス。これより、転送を開始しマス。今回の優勝者は、御堂雄生デス」

 悲願が達成される日は目の前――雄生はそう思った。彼が安堵を覚えるのと同時に、その体からは力が抜け落ちる。彼方が転送されている目の前で、彼も意識を失った。

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