探り
奇しくも、彼方は雄生の隣のメディカル・ポッドに転送された。そこで話を切り出すのは、雄生である。
「アンタ、ほたるを殺したのか」
「ええ。また生活基盤を握られたら、たまったものではありませんから」
「……まあ、そうだな。オレは怖いよ。人の死に実感を持てない、自分自身が」
事実、彼はあの現場を直接見たわけではない。すぐ隣の男がノセボ効果で死人を出したという真実は、そう簡単に咀嚼できるものではないのだ。
雄生は少し考え、それから再び口を開く。
「なぁ、彼方」
「どうなさいましたか?」
「美美の正体って、オレの妹なのかな?」
思い返せば、あのAIは雪吹の面影を匂わせることが多々あった。時折、彼女は彼を「お兄ちゃん」と呼ぶこともあった。彼が龍造を詰めた時、話ははぐらかされた。今出揃っている情報だけでも、かなりきな臭い話である。
彼方は見解を述べる。
「私は存じ上げません。しかし、君の仮説にはこれといった矛盾も見られません。ラディカルの急増、そしてメディカル・ポッドというオーバーテクノロジー。これらは、曲解の力を介していなければ説明のつかない事象ですから」
彼は雄生の仮説を一笑しなかった。されど、その仮説を積極的に支持しているわけでもない。
「……オレ、雪吹に会えるのかな」
そう呟いた雄生は、底知れぬ不安を噛み締めていた。
*
一方、街の一角では、長治が蓋世に接触している。
「なぁ、お前さん。この街のゲームマスターは、一体何者なんだ?」
それが彼の第一声だった。蓋世は含みのある笑みを浮かべ、こう答える。
「簡潔に述べるなら、奴は貴様らの抱える全ての痛みに関わっている男だッ!」
無論、その回答は長治にとって納得のいくものではない。
「おいおい。俺が苦しんだのは、何十年も前の話だぞ? 噂を聞くに、ゲームマスターは若造だ。おそらく、俺が塀の中にいた頃、あの若造はまだ年端もいかないガキだったはずだ」
長治がそう考えたのも無理はない。当時の龍造の年齢は、高く見積もっても一桁止まりのはずだ。
「逆因果律――」
蓋世はそう言いかけた。されど彼の発言は、一人の男によって遮られてしまう。
「探りを入れるな」
――夜露龍造の登場だ。彼は麻酔銃を構えており、その先端を長治に向けている。それから有無を言わさず、彼は発砲した。射出された注射器は、長治の首筋に勢いよく突き刺さる。
「何を撃った……?」
「特注の鎮静剤だァ。こいつを注射された者は、三十秒前後で眠気を感じ、一分ほどで眠りに落ちる」
「若造。お前さんは、何者だ?」
「答える義理はないねェ。お前はただ、プレイヤーとしての振る舞いを続けていればいい」
「傲慢だな。俺は、お前さんのような若造には容赦しないぞ」
長治は構えを取り、眼前のゲームマスターを睨みつけた。しかしそれから数秒ほどで、彼は眠気を覚えてしまう。視界がおぼろげになる。意識が遠のく。彼は手元に光を集めようとするが、曲解を発動する程の集中力を保てない。それから更に三十秒が経過し、長治はその場に崩れ落ちた。
龍造は指示を下す。
「美美。綾川長治をメディカル・ポッドに転送しろ。今回は、失格による敗退扱いでいい」
「了解しマシタ。これより、綾川長治の転送を開始しマス」
無造作に倒れながら寝息を立てている長治は、徐々にその場から消えていく。その様を横目に、蓋世は言う。
「龍造。そろそろ全てを明かしてもいい頃合いだと思わないか? 連中を更に成長させるものがあるとすれば、それは『共通の敵』の存在だろう」
それに対し、龍造はこう答える。
「まあ、直に全てが明かされるさァ。何せ、御堂雄生の望みが『妹との再会』なんだからなァ」
やはり雪吹の存在は、このゲームに深く関わっているようだった。




