表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/47

断裂

「ほう。御堂(みどう)さんが、あの柳田(やなぎだ)さんを……」

 放送を聞いていた彼方(かなた)は、興味深そうに微笑んだ。それから彼が後方に振り向くと、その視線の先には一時的に徒党を結んでいる三人組がいる。

「はーっはっはっは! 一番厄介な君から倒しておきたいのは、我々の総意なのだよ!」

香琉(かおる)ちゃん、彼方みたいな女殴ってそうな男は信用してない」

「ふふふ……流石のきみも、わたしたち三人に束になられたら困るでしょ?」

 月島海斗(つきしまかいと)浪風香琉(なみかぜかおる)、そして平沢(ひらさわ)ほたるだ。いの一番に曲解を発動したのは、ほたるである。彼女の曲解により、彼方は自らの肉体を動かせなくなる。直後、銃弾と輪ゴム、そして衝撃波が襲いかかり、彼はそれらを一身に浴びた。表情筋の弾性も強化されている彼方は、言葉を紡ぐことさえままならない。そこで彼は、脳内で自己暗示をする。


――このまま筋繊維が極端に圧縮されれば、圧力によって断裂すると。


 トレンチコートの袖が、内側から緋色に染まった。何やら彼方は、自らの右腕の筋繊維を断裂させたらしい。さっそく、彼は三本のメスを取り出した。彼は右腕を無理に動かし、先ずは一本のメスを投げる。

「動ける……だと!」

 驚愕した海斗の首筋に、メスが切れ込みを入れる。続いて、二本目のメスも投擲される。

「ひっ……! なんで香琉ちゃんばっか、こんな目に!」

 二本目は、香琉の耳孔に深く刺さった。そしていよいよ、最後のメスが飛ぶ。

「なっ……!」

 最後の一本は、ほたるの胸に突き刺さった。


 彼方の右腕は限界を迎え、ついに動かせなくなった。その袖の裾からは、鮮血が漏れ出している。さりとて彼は、相手に「自覚症状」を与えた。一人は頸動脈、もう一人は耳孔、残る一人は心臓から出血しているのだ。彼方の目は赤く光った。


 直後、海斗と香琉が失神した。これで三名の敗退者が出たが、運営はインターバルを告げられない。

「月島海斗、浪風香琉、夢宮彼方の曲解により戦闘不能デス。転送を開始しマス。夢宮彼方と平沢ほたる双方の曲解が解いていないため、まだインターバルを始められマセン」

 今の状況を整理すると、「先に曲解を解いた方」が倒れることとなる。つまり彼方とほたるには、曲解を解除する理由がない。ほたるは胸から鮮血を滲ませつつ、依然動けない彼方に輪ゴムを飛ばしていく。彼方もまた傷を負いつつ、眼前の少女の自覚症状を悪化させていく。両者ともに一歩も動いていないが、これは紛れもない泥仕合だ。


 一か八か――彼方は表情筋に精一杯の力を籠め、妖艶な笑みを浮かべた。それはほたるに対する警告、あるいはブラフである。彼が笑っている以上、自分の身に何が起きてもおかしくないと――そう相手に思わせるための罠だ。ほたるとて、それが罠であることは承知している。しかしあるはずのない症状を「意識」することにより、彼女はノセボ効果の餌食となる。


 ほたるは千鳥足になり、その場に倒れた。しかし美美(メイメイ)は、転送を開始しない。

「平沢ほたる、夢宮彼方の曲解により死亡しマシタ! 生命反応がありマセン! これより、一時間のインターバルを設けマス!」

 あの時の彼方の笑みは、ほたるに「自らが死ぬ可能性」を連想させた。あの闇医者の曲解は、ついに相手を思い込みだけで殺せるようになったのだ。


 ほたるの死により、彼女の施していた曲解は解除される。今の彼方は、右腕以外なら体のどこでも動かせる。しかし三人の猛攻を一身に受けた彼は、酷い重傷を負っている。

「やれやれ……派手にやられたものですよ。美美、私をメディカル・ポッドに転送してください」

 その要求は切実だった。

「了解しマシタ。これより、転送を開始しマス」

 美美が要求を呑み、彼方の転送が始まる。やがて彼が完全にその場から消えた時、そこにはほたるの亡骸だけが残された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ