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復興

 世界各地で、革命が起きた。止まっていた物資の供給は再開され、かつてあった生活基盤が取り戻された。水道も、ガスも、ひいては電力も機能している。さりとて、それで失われた全てを取り戻せるわけではない。

「押さないで押さないで、列に並んでください!」

 慈善団体の前に、長蛇の列が押し寄せた。そこで支給されているものは、ピーナッツペーストを主成分とした栄養治療食だ。これは小袋一つにつき九十二グラムしかない小さな食べ物だが、その一つ一つのカロリーは実に五百キロに達している。様々な栄養を兼ね備えたその食品は、まさに現代の完全食と言っても差し支えないだろう。


 世界中のスラム街には、かつての平沢財閥(ひらさわざいばつ)の狼藉によりやせ細った孤児が大勢いる。中には、レンタルチャイルドとしての利用価値を見いだされ、四肢のいずれかを欠損した者も多い。そのビジネスの元締めに買い取られた子供たちは、これから肉親に会うこともないだろう。言うならば、彼らは商品として売却された身の上なのだ。


 世相の変化で最も大きかったのは、医療インフラの復旧だ。それまで疫病や免疫疾患に苦しんでいた貧困層が、薬物療法を頼れるようになったのだ。

「お願いします、娘を救ってください!」

「ワクチンを接種しに来た。最近は疫病が蔓延しているからな」

「最近、栄養失調なんです。点滴をお願いします」

 医療施設はどこもかしこも、大勢の患者で溢れ返っていた。これまで医療を頼れなかった者たちが、一斉にして動き始めたのだ。


 当然、半導体や石油燃料の供給も再開した。職人たちはこぞって基盤を作り始め、数多の端末が製造されていく。一時は発展途上国のようになっていた国々も、徐々に先進国のインフラを取り戻しつつあるのだ。



 *



 結論から言えば、平沢財閥の天下は崩れた。されど、一度得た富が一瞬にして失われるわけではない。まだ私財を持て余しているほたるは、純白のバスローブに身を包んでいる。そして彼女は、いつものタワーマンションの一室から街を見下ろしている。かつてはその光景の全てが彼女の縄張りだったが、今は違う。心なしか、ほたるの眼差しは憂いを帯びている。

「嗚呼。わたしの天下も、ここまでか」

 その傍らでは、使用人が食器を片付けている。しかし彼がここで働く日も、そう長くは続かないだろう。いくら貯金に蓄えがあっても、収入がなければ持続可能性はない。して、ほたる自身もそれをよく理解している。

美美(メイメイ)。ここが見えているんだろう?」

 一先ず、彼女は美美を呼んだ。その場に、パンダのマスコットのホログラムが映し出される。

「お呼びデショウか?」

「次のゲームに、抜山蓋世(ばつざんがいせい)は参戦するの? わたし、もうあの化け物とは戦いたくないんだけど」

「安心してクダサイ。前のゲームは、ちょっとした例外デス」

 曰く、次のゲームにはあの男が参加しないらしい。安堵を噛み締め、ほたるは深呼吸をする。彼女はまだ、野望を諦めてはいない。

「わたしは、わたしの天下を取り戻す」

「つまり、次の願い事も同じということデスか?」

「もちろん。一度権力の味を知ったわたしは、もう普通の生活には戻れない。親も、誰も彼も、国も、何もかもがわたしを縛れない。わたしはそういう世界を望む。この世界の頂点に相応しいのは、わたしだよ」

 曲がりなりにも、ほたるはラディカル・ゲーム屈指の実力者のうちの一人だ。蓋世が観客に戻った今、彼女にも勝機はある。少なくとも、彼女自身はそう確信していた。


 美美は告げる。

「それでは、ラディカル・シティに来てクダサイ。明日、ゲームが開始されマス」

 無論、この好機を逃すほたるではない。

「わかった。今から支度するよ」

 さっそく、ほたるは更衣室へと足を運んだ。

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