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絶対王者

 あれから遊園地を後にした蓋世(がいせい)は、ラディカル・シティの中央にある広場に赴いた。そこで彼を待っていたのは、前回の優勝者――柳田叶得(やなぎだかなえ)であった。

「できることなら、無傷のキミと戦いたかった」

 それが彼女の第一声だった。この期に及んでもなお、彼女は本気の闘争を求めている。

「それでもハンデにしては生ぬるい。かかってこい、柳田ッ!」

 その場に、蓋世の大声が響き渡る。


――戦闘開始だ。


 叶得は間合いの角度を何度も切り替え、全方位からの攻撃を試みた。しかし彼女の殴打も、蹴りも、肘打ちも、かかと落としも、全て瞬時に見切られてしまう。抜山蓋世(ばつざんがいせい)と云う男は圧倒的強者だ。その動体視力や視野の広さもまた、常人とは一線を画すものである。

「覚えた。次は、この辺りかッ!」

 突如、彼はあらぬ方向に拳を突き出した。その先に現れた叶得は、腹部に打撃を受けてしまう。宙を舞う彼女を追うように、蓋世は前方へと飛び出す。それから彼は相手の足元に潜り込み、アッパーカットを繰り出す。この衝撃により更に上空へと飛ばされた叶得は、宙で体勢を変えてから雄叫びを上げる。

「グルァア!」

 彼女の繰り出すかかと落としは、蓋世の脳天に直撃した。されどこの一撃は、あの男を怯ませるには至らない。彼女の技は、スタンにすらならないのだ。

「隙ありッ!」

 蓋世は声を張り上げ、左手で叶得の足首を掴んだ。直後、彼はその場で一回転し、そのまま彼女の身を放り投げた。

「がはぁっ……!」

 地面に叩きつけられた叶得は、その場で勢いよく吐血する。その瞬間には、すでに目の前に拳が迫っていた。咄嗟の判断により、彼女は間合いを切り替える。突き出された拳は前方にある石像に命中し、周囲には砂利のような残骸が飛散した。叶得は思う。あの一撃をまともに受けていたら、自分は確実に死んでいた――と。それから彼女は、再び間合いの切り替えによる全方位攻撃に集中した。その挙動は俊敏かつ正確で、そこには一切の迷いがない。またしても、彼女は無我の境地――フロー状態に辿り着いたのだ。あらゆる角度から迫るラッシュの応酬に、蓋世の身は徐々に傷つけられていく。無論、この男が防戦一方になるはずはない。

「……見えた。己も、ゾーンに入った!」

 そう呟いた彼は、裏拳を繰り出した。その後方で、叶得が強烈な一撃を受ける。彼女は後方に倒れかけたが、後方宙返りにより体勢を整える。その目の前には、左足が迫っている。

「ウルァア!」

 叶得は間合いを切り替えない。彼女はただ、両腕で相手の強靭な左脚を抱え込んだ。しかし蓋世は、足を勢いよく振り上げる。その勢いに耐え切れず、叶得の身は上空に投げ出される。さりとて彼女は、間合いを曲解するラディカルだ。彼女は瞬時に強敵の背後に回り込み、眼前の後頭部に回し蹴りをお見舞いする。両者ともに、著しく脳汁を分泌している。無我の境地に至った者同士の死闘は、常人の肉眼で追えるものではない。一発、二発、そして三発――否、もはやこの瞬間に何発もの攻撃が繰り出されたかは定かではない。二人は俊敏な体術を発揮し、その軌跡をなぞるように残像が発生していった。


 その喧騒に終止符を打つのは、蓋世だ。彼は叶得の後頭部に掌を添え、それから彼女の顔面をアスファルトに叩きつけた。彼女の顔は地面にめり込み、その周囲の地面には亀裂が入る。結果を告げるのは、無機質な合成音声だ。

「柳田叶得、抜山蓋世の攻撃により戦闘不能デス。これより、転送を開始しマス。優勝者は、抜山蓋世デス」

 やはりラディカル・ゲームの絶対王者は、そう簡単に敗れはしない。そのたった一つの体で、彼は八名のプレイヤーに勝利したのだ。


 蓋世は空を見上げ、声を張る。

「さぁ、平沢財閥が全人類のライフラインを握る前のインフラを返すんだなッ!」

 今度こそ、ほたるの天下は終わりを告げることとなった。

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