不純物
続いて、蓋世が向かった先は廃墟の遊園地だった。そこで彼を待ち受けていたのは、香琉とほたる、そして長治の三人だった。ほたるは弾性を極限まで高めた輪ゴムを飛ばし、長治は紫の光線を放つ。蓋世はその攻撃を受け止めたが、まるで傷を負っていない。彼は三人の方へと、じりじりとにじり寄ってくる。爆炎の中に見えるそのシルエットは、まさに「力の境地」そのものを象っていた。
「やめろ! 来るな! 来るなぁ!」
取り乱した香琉は、必死に機関銃を乱射した。しかし煙が晴れた時、そこには両手いっぱいに銃弾を持った蓋世の姿があった。
「化け物め……!」
ほたるが曲解を発動し、蓋世の足元のコンクリートが大きくへこむ。されど蓋世は跳躍し、そのままほたるの身にかかと落としを食らわせる。
「何故……動ける……!」
そんな疑問を口にし、彼女はその場で力尽き果てた。続いて、香琉がリロードし、再三機関銃を連射する。その弾丸は全て筋肉に弾かれ、風穴を開けることができない。
「次は、貴様だ」
そう宣言した蓋世は、彼女を勢いよく殴り飛ばした。香琉は宙で失神し、そのまま地面に叩きつけられる。その場に残るプレイヤーは、長治と蓋世だけだ。少女たちが転送されている最中、長治は眼前の強敵を睨みつける。
「お前さん、翔也を殺したらしいな」
「当然だッ! 殊更、闘争においては、愛や庇護欲などといった不純物は取り除かれて然るッ!」
「全てを手に入れても、人並みの人情は手に入らなかったのか。哀れなモンスターだな」
彼の口ぶりは飄々としていたが、その声色は怒気を帯びていた。もっとも、その威圧感は目の前の巨漢には通用しない。
「その人情とやらで何ができるッ! 結果をもって見せてみろッ! 綾川長治ッ!」
「そうだな。俺の知る世界でも、『結果』が全てだった。人は無意味に生まれ、結果をもってしてその命に意味を見いだす。進化も、学説も、金の価値も、あくまでも紆余曲折を経た結果でしかないんだ」
「御託を並べるなッ! 迎え撃てッ!」
これ以上の話し合いは無意味だ。今の彼らに要されるのは、断じて言葉ではない。長治は紫の光線を連発し、周囲の地形ごと標的を焼いていく。それでもなお、その標的は涼しい顔で間合いを詰めてくる。一歩、また一歩と――蓋世は着実に距離を縮めてきている。少女たちの転送は終わっており、今の長治なら本気を出せる。
そこで彼は、覚悟を決める。
「こうなりゃぁ、相打ちに賭けるしかないな」
そう呟いた彼は紫外線を高濃度に束ね、それを勢いよく射出した。されどその一撃は、せいぜい蓋世の一歩を遅らせる程度の意味しか持たなかった。紫外線による細胞の炎症で、長治の呼吸が荒くなる。彼はすでに満身創痍だが、その目の前に立つ強敵は依然無傷だ。
「万策尽きたかッ! 綾川ッ!」
「ゼェ……ゼェ……まだ立っていやがる。お前さん、本当に人間か?」
「ラディカルだ。己も、貴様も」
やがて距離を詰め終えた蓋世は、おもむろに相手の頭を掴んだ。直後、彼はその頭を横に曲げた。骨が砕ける音と共に、長治の首はあり得ない角度に曲がってしまう。長治の瞳孔が真上に傾き、その身は無造作に崩れ落ちる。
「浪風香琉、平沢ほたる、綾川長治、抜山蓋世の攻撃により戦闘不能デス。これより、転送を行いマス。残るプレイヤーは、三名となりマス」
美美からの通達だ。その音声はスピーカーを介しており、この場にあのアバターは現れていない。そこで蓋世は、彼女を呼ぶ。
「美美。後の二人は、今どこにいる?」
そう訊ねた彼は、血気に満ちた表情をしていた。さりとて、運営は一個人に強く加担する権限など持ち合わせていない
「お答えできマセン。敵を探すことを含めてのラディカル・ゲームデスから」
そんな返答を聞かされ、蓋世は深いため息をついた。




