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猛獣

 やがてゲームが始まった時、翔也(しょうや)を連れた雄生(ゆうき)は街角の動物園にいた。この場所には、翔也を庇護する猛獣がたくさんいるからだ。彼らの他にも、海斗(かいと)もその場に居合わせている。三人共に、臨戦態勢だ。


 海斗は言う。

「全力でかかれ。抜山蓋世(ばつざんがいせい)は、今までの相手とは大きく違うぞ!」

 曲がりなりにも、彼は雄生よりも長くこのゲームを味わっている身の上だ。当の雄生はまだ、あの男と戦うことの意味をわかっていない。されど、その場の重苦しい空気は、言葉よりも雄弁だ。

「……ああ、わかってる。オレたちで、翔也を守ろう」

 心なしか、雄生の反応は一瞬ほど遅かった。その眼は虚ろであり、白くなりつつある髪も相まって弱々しい。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 そう訊ねた翔也は、不安げな顔をしていた。無論、ここで男が音を上げるわけにはいかない。

「案ずるな。オレは長男だ」

 雄生はそう言ったが、その身が不健康であることは傍目に見ても明らかだった。



 やがてその場に、抜山蓋世が現れる。

「先ずは三人か」

 立てば修羅、座れば魔王、歩く姿は闘争の形そのもの。そんな男が今、雄生たちの身を狙っている。その圧倒的な威厳に、三人は声を失うばかりだ。張り詰めた空気を破るように、翔也が目を光らせる。直後、その場にはライオン、虎、アフリカゾウ、ヒグマなど、様々な猛獣が集結した。猛獣たちは彼を守るべく、一斉に蓋世の方へと飛び掛かる。蓋世は旋風脚によって彼らを退け、先ずはライオンにタックルをお見舞いする。その後ろにいたヒグマも巻き込まれ、二頭は後方の壁に勢いよくめり込んだ。続いて、一頭の虎が牙を剥き、蓋世の身に襲い掛かる。しかし蓋世はアッパーカットを繰り出し、虎の顎の骨を粉々に粉砕する。彼の最後の標的はアフリカゾウだ。その体長は最大四メートル、体重は最大十トン――一対一の戦いであれば、捕食者すらも蹂躙する陸上最強の動物である。

「フンッ……!」

 蓋世はアフリカゾウの鼻を掴み、それを勢いよくしならせた。その振動が脳に達したのか、眼前の猛獣は立ちくらむ。その足元が崩れる様を見逃さなかった蓋世は、鼻を引き寄せることにより間合いを縮める。そして彼は、象の牙を勢いよく引っこ抜いた。アフリカゾウは声にならない悲鳴を上げ、大量出血しながら気絶する。それからもチーター、ジャガー、キリンなど、様々な猛獣が翔也を守りに来たが、その全員がことごとく返り討ちに遭っていった。


――ついにラディカル同士の戦いが始まる。


 蓋世は少し苛立っている。

「守る為の闘争は純度が低いッ! これは闘争に対する愚弄と見たッ!」

 それが彼の主張だった。かくすれば彼が最初に奪うべき命は、もう決まっている。

「やめろ! 蓋世!」

 雄生は咄嗟に叫んだ。しかし彼の目の前では、強烈な拳を叩きつけられた翔也の顔面が粉砕する。いくらメディカル・ポッドがあったところで、もう翔也は息を吹き返さないだろう。

「子供相手に、なんてことを!」

 そう叫んだ海斗は宙を殴り、凄まじい風圧を発生させた。その風圧に動じず、髪だけなびかせている蓋世は、小さな岩石を拾い上げる。そして彼が振りかぶった直後、岩石は海斗の腹部を貫通した。

「がはぁっ……!」

 勢いよく血を吐き出した海斗は、その場で気を失い、後方に倒れる。その場に残されたのは、雄生と蓋世の二人だけだ。

「オレは傷ついても、いくらでも再生できる!」

「ならば再生される前に一撃で仕留めればいいだけのことッ! いくら小細工を弄しても、純然たる力には及ばぬッ!」

 強靭な肉体から、右ストレートが繰り出される。たったそれだけの一撃で、雄生は宙を舞い、そして地面に叩きつけられる。

「翔也を……返せ……」

 そんな一言を残し、彼は意識を失う。


 美美が告げる。

谷村翔也(たにむらしょうや)、死亡。月島海斗(つきしまかいと)御堂雄生(みどうゆうき)、戦闘不能デス。今回は特殊ルールにより、インターバルはありマセン。残るプレイヤーは、後六名デス。転送を開始しマス」

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