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ラディカル・シティ  作者: やばくない奴
雄生、参戦
3/19

ヒグマ

 最初に雄生(ゆうき)の前に現れたのは、一頭のヒグマを連れた年端もいかない少年だった。どういうわけか、体長約二メートルにも及ぶヒグマは、その少年を襲おうとする気配を見せない。そして雄生自身も、眼前の参加者を敵視することができなかった。

「こんなガキを、オレが……? 無理だ! オレはコイツを、守らなければならねぇ!」

 何やら彼は、父性のようなものを抱き始めていた。一方で、目の前の少年は戦うことを厭わない。彼はヒグマに目を遣り、雄生を指差した。直後、ヒグマは雄生の方へと駆け寄り、鋭い爪を振りかざした。

「なっ……!」

 咄嗟の出来事に対処できず、雄生は腹部に深い傷を負う。彼はすぐに再生したが、ヒグマの猛攻によって退いていく。その一撃一撃は、推定約二トン――自動車を破壊できる程の威力である。

「防戦一方じゃ、ダメだ!」

 このままでは万事休すだ。雄生はヒグマの巨躯を目掛け、旋風脚をお見舞いする。さりとて、相手は強靭な皮下脂肪と骨を有する猛獣だ。当然ながら、雄生の猛攻はまるで通用していない。


 ヒグマを射殺する際、猟友会は特殊な弾薬やライフル銃を用いる。並大抵の拳銃では、銃弾がその身を貫通しないからだ。つまるところ、その筋力の高さもさることながら、ヒグマは身体の強度においても常軌を逸しているのだ。


 それからも猛獣による猛攻は続き、その都度雄生は再生していった。されど、決して戦況に変化がないわけでもない。心なしか、ヒグマの動きは鈍り始めている。スタミナ――殊更にその一点だけは、人類は他の追随を許さないと言われている。


 人類の繁栄に大いに貢献したとされるものの一つに、持久力がある。多くの捕食者が短時間での狩りに全力を注いできた傍らで、人類は長時間獲物を追い回してきたと言われている。例え最高速度で遅れを取っても、息の上がった被食者に追いつくには持久力で事足りるのだ。


 やがてヒグマの挙動は、回避が容易な程に鈍化した。かくすれば、雄生のすべきことはただ一つだ。

「今だ!」

 標的の右目に、強烈な右ストレートが叩き込まれた。続いて、左目には左ストレートが叩き込まれる。視力を失った猛獣は、絶叫と共に退いた。更に畳みかけるように、その強靭な顎は勢いよく蹴り上げられる。無論、それだけでヒグマが絶命するわけではない。

「落ちろ! 落ちろォ!」

 一発、また一発と、容赦ないラッシュの応酬がヒグマの顔面を襲う。無論、普通なら人間の打撃程度でヒグマが気絶することはないだろう。さりとて、御堂雄生(みどうゆうき)はラディカル――その曲解の対象は「ホメオスタシス」である。

「伝わるぜ、アンタの体温、落ちてる!」

「息が上がってきたようだな!」

「命までは奪えねぇが、少し眠っててもらうぞ!」

 こうして闘争が続いたのちに、ヒグマは気を失った。脳震盪を起こしたわけではない。ただ、気を失っただけなのだ。


 親代わりの猛獣を気絶に追い込まれ、少年は怖気づいた。されど、雄生には彼に対する戦意はない。

「大丈夫だ。アンタを狩るつもりはない」

「本当?」

「ああ、本当だ。オレは御堂雄生。アンタは?」

「ぼく、谷村翔也(たにむらしょうや)

「そうか。しばらくは、オレがアンタを守るぞ、翔也」

 結論から言うならば、このゲームに勝利するには「最後の勝者」になる必要がある。して、それは雄生自身も了承していることだ。

「ありがとう。お兄ちゃん」

「ただし身の危険を感じたら、すぐに降参するんだぞ。おそらくアンタの曲解の対象はベビースキーマ――母性や父性をくすぐる力なんだろうが、それがいつでも通用する保証はねぇからな」

「うん、わかった!」

 こうして、彼らはコンビを結成したのであった。


 雄生は美美(メイメイ)を呼ぶ。

「美美」

「なんデスか?」

「このゲーム、参加者数は?」

「八名デス」

「多いな……」

 優勝までの道のりは険しそうだ。

挿絵(By みてみん)

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