ゴーストタウン
雄生が辿り着いた街は、あまりにも閑散としていた。先ず前提として、交通機関が存在しない。車も、バスも、ひいては電車も走っていなかった。この街が元ある都市を居抜きしたのか、かろうじて線路や道路は残っている。言うならば、これはゴーストタウンと呼ぶに相応しい街並みだ。
雄生の前に、パンダのマスコットのようなホログラムが現れる。
「ラディカル・シティへようこそ! ミーはこの街AI、美美デス! この街は、ゲームマスターが丸ごと買い取った治外法権の領土デス!」
そう語った彼女から、雄生は何か奇妙な感覚を覚える。
「オレはアンタとは初対面のはずだ。なのに、この既視感はなんだ?」
「存じマセン。しかしミーも同じ感覚を覚えていマス。とりあえず、ルールの説明に移りたいと思いマス」
「はぁ」
彼が状況を飲み切れないのは致し方ない。彼は先日、屈強な著名人から襲撃を受け、この街に案内され、その上よくわからない出来事に巻き込まれた身の上なのだ。
そんな彼に構わず、美美は説明を始める。
「先ずラディカルというのは、曲解という力によって何かを極端にできる新人類の総称デス。例えばユーはホメオスタシスを曲解し、類稀なる再生力を誇りマス」
「なるほど、道理であの時に命拾いしたわけか」
「最後に勝ち残った一人は、ゲームマスターに望みを叶えてもらえマス。戦闘不能か降参で脱落デス。三人脱落するたびに、一時間のインターバルが設けられマス」
一見、その話は信用するに値しないものだ。しかし雄生は、不自然な程に多くを掌握した男を存じている。
「抜山蓋世も、このゲームで全てを手に入れたのか?」
「左様でございマス。しかし、どんな望みでも叶うわけではありマセン。理論上、実現可能な望み――それだけが叶えられマス。他に叶えられないのは……」
「願い事を増やす系統の望み……とか?」
この手の上手い話には、必ず要求の数に関する制限が設けられる。して、雄生はそれを飲み込み始めている。
「その通りデス。直接願い事を増やすのも、全能になって間接的に全てを叶えるのもルール違反デス」
「……そうか。ところで、負けたら、死ぬのか?」
「部分的にはそうなりマス。脱落者はメディカル・ポッドに転送され、回復させられマスが、転送には十秒間かかりマス。戦闘で即死したり、あるいは転送の途中で殺された者は、二度と復活できマセン」
下手を打てば死ぬ――何やらこのゲームは、そう生温いものではなさそうだ。さりとて、ここで退く雄生ではない。
「オレが勝ち残り、妹と再会する!」
「良いのデスか? そう簡単に自らの身を危険に晒しても」
「妹の身を案じねぇ長男がどこにいる? 御堂の血は家族を裏切らねぇ!」
これは、他のプレイヤーたちに対する宣戦布告だ。その瞳には、底知れぬ覚悟が宿っている。握り拳に力を入れる彼の周囲で、空気が張り詰める。彼の出で立ちはすでに、一人の狂戦士と呼ぶに相応しきものであった。
「つまり、エントリーするということデスね?」
「ああ、エントリーだ!」
「受理しマシタ。ゲーム開始の合図が来たら、他の参加者を探して倒してクダサイ」
そう告げた美美の風格は、あまりにも無機質なものであった。その身や声に走るノイズは、彼女が電脳存在であることを端的に示していた。
それから約十分後、美美は街中のスピーカーを介して合図を出す。
「ゲーム開始デス。各自、他のプレイヤーを探してクダサイ」
数多のスピーカーから流れた声は、街一帯に反響した。雄生はその場で軽いストレッチを行い、臨戦態勢を整える。
「どんな奴でもかかってこい! アンタらが何を望んでいようと、オレが雪吹を想う心には敵わねぇ!」
そう断じた彼は、周囲を見渡した。先ずは敵を探すこと――それが彼に課せられた目標だ。




