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ラディカル・シティ  作者: やばくない奴
ライフライン
29/34

日没

 やがてインターバルが終わった時、病院では長治(ちょうじ)がメディカル・ポッドを出た。彼が窓の外を眺めると、空は夕焼け色に染まっている。


――光源がなくては、彼は戦えない。


 無論、それは彼自身もよく理解していることだ。彼は光学密度を曲解できるだけで、無から光を生み出しているわけではない。かくすれば、彼が取るべき選択肢はただ一つだ。夜が明けるまで、街のどこかに身を潜めよう――長治はそんな考えに至った。


 それから病院を後にした長治は、すぐ近くにある廃墟のビルに立ち入った。彼が階段を登るたびに、錆びた鉄の軋むような音が鳴った。この建物は、酷く老朽化している様子だ。まさしくその唯一の存在意義は、隠れ蓑に他ならない。

「ここまで来れば、誰の襲撃も受けないだろう」

 この時、長治は油断していた。広い街の一角にある――老朽化した廃屋。わざわざそんな場所を洗い出す者は、そう多くはいないだろう。彼はそう確信していたのだ。


 直後、凄まじい地響きと共に、天井に亀裂が入った。

「なっ……!」

 咄嗟に身構えた長治の目の前に、瓦礫と一人の少女が落ちてくる。

「キミがここに入るのを見ていたよ、綾川長治(あやかわちょうじ)

――柳田叶得(やなぎだかなえ)の登場だ。日が落ちるまで、あまり時間は残されていない。長治は紫の閃光で辺りを包み込み、ビルを爆破した。崩れ行く廃屋。落下する二つの人影。この状況下においても、両者は激しい戦闘を繰り広げる。光線が放たれ、至近距離からの体術が繰り出される。その繰り返しは、ほんの数秒の間に何度も繰り返された。やがて路上に着地した彼らは、数瞬ほど次の手を考える。長治から見れば、近接戦闘に特化した叶得は厄介だ。して、叶得から見れば、長距離戦に特化した長治は厄介である。相容れない二人の闘争に、第三者の介入する余地はない。

「朝まで見逃してくれって言ったら、笑うか?」

 そう訊ねた長治は、自嘲的な笑みを浮かべながら肩をすくめた。当然ながら、彼が許されることはない。

「キミは自分が有利な時にしか戦わないのか? いかなる戦局においても背中を見せないのが、一流の戦士の美学だろう」

「悪いな。あいにく俺の目的は、平沢財閥の天下を終わらせることなんだ。お前さんの美学に付き合う義理はない」

「そうか。だったら、ご退場願おうか。ボクは闘争の純度を下げる要素が気に食わない。今のキミの逃げ腰も、いつもの翔也(しょうや)の立ち回りも、正直是とは思っていない」

 そう語った叶得は、底知れぬ闘争心を宿した眼差しをしていた。やはり長治は、分の悪い勝負に出るしかないらしい。

「そうだな。お前さんの言う通り、このゲームのプレイヤーが戦場を選べる道理はない。日が落ちる前に、一気にカタをつけてやろう」

「望むところだよ」

「先ずは、隙を作るところからだな」

 今一度戦意を取り戻した彼は、その場を眩い光に包み込む。その明るさに目を瞑り、叶得は攻撃の隙を許してしまう。直後、紫色のレーザーが放たれ、叶得は腹部を貫かれた。それでも彼女の意識は途切れない。またしても過集中に入っている彼女は、痛みすらも闘争心に上書きされているのだ。

「グルァア!」

 叫び声を上げた叶得は、曲解によって間合いを詰める。長治の後頭部に、凄まじい威力のかかと落としがさく裂する。彼は反撃を試みたが、もはや彼の手元には大した光が集まらない。


――空は暗くなっていた。


 そのことに気づいた長治は、深いため息をつく。

「はぁ……降参だ。美美(メイメイ)、俺をメディカル・ポッドに転送してくれ」

 光源を失った今、彼に戦闘を続行する理由はない。

「綾川長治、降伏により敗退デス。これより、転送を開始しマス」

 美美の無機質な音声が鳴り響いた直後、長治の体は消え始めた。晴れて勝利を手にした叶得は、不服そうな顔をする。

「呆気ないな……面白くない」

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