父性
長治は光線を連射する。しかし、その一発一発の威力は低い。近くに翔也がいる以上、彼は周囲を爆炎に巻き込むわけにはいかないのだ。一方、香琉は遠慮しない。彼女は機関銃を乱射し、二人の身に風穴を開けていく。そこで翔也は目を赤く光らせ、大声を出す。
「助けて!」
その声に反応し、おびただしい数のカラスが集う。黒い群集は香琉を取り囲み、彼女の身に噛みついていく。その様はさながら、スズメバチを取り囲むニホンミツバチの群れのようでもあった。
「うっとうしい、死ね!」
そう叫んだ香琉はカラスの群れを振り払い、再び機関銃を掃射する。直後、彼女の目は発光をやめ、長治と翔也の身に猛烈な激痛が走る。
「っ……!」
翔也は気絶し、無造作に倒れた。それを街中に伝えることは、審判を務める美美の責務だ。
「谷村翔也、浪風香琉の曲解解除により戦闘不能デス。残るプレイヤーは六名デス。これより、転送を開始しマス」
転送が始まった。翔也が気絶した今、彼の曲解は機能していない。つまるところ、この場に立つ二人には彼に情けをかける必要がないのだ。
「愛されてるガキが一番ムカつくんだよ! 香琉ちゃんには下心のある馬鹿な男しか寄ってこないのに!」
そんな本音を口走った香琉は、迷うことなく翔也に銃口を向ける。十秒以内にとどめを刺せば、彼女は眼前の小児を殺めることができるだろう。
しかし長治は、両者の間に割り込んだ。彼は両腕を広げ、勇ましい顔つきで香琉を睨む。
「お前さん、矛盾だらけだな。腐った世の中を憎んでいる割には、人の幸せを許せない。結局、お前さんの出生に対する憎悪は、なんの優しさも伴わないエゴだったんだ」
「違うよ! 香琉ちゃんはただ、不幸な命が生まれて欲しくないだけだよ! それと幸せな命を許せないことは、両立するもん!」
「それをエゴだと言っているんだ。生まれてくる子供を可哀想と宣いながら、可哀想じゃない子供はムカつくだぁ? 結局お前さんは、己の人生に折り合いをつけられず、出生という便利なサンドバッグを見出して逃避行しているだけだろう!」
そんな弁舌が繰り広げられた最中、翔也の転送が完了した。あの少年は曲解ではなく、長治自身の持つ父性によって守られたのだ。
「これで気を遣う必要はない……本気で行かせてもらうぞ」
この瞬間、長治の目つきが変わった。直後、彼は紫に光り輝く光線を放ち、眼前の一帯を紫炎で焼き尽くした。高濃度の紫外線は、容赦なく香琉の体を蝕む。
「ほら! あのガキは守ってもらえて、香琉ちゃんは今殺されそうになってる! どうして? なんで? どうしてこの世界は、香琉ちゃんを守ってくれないの!」
「お前さんの過去は知らない。だが、それが今のお前さんの免罪符になりえないことだけはわかる。年端もいかねぇガキを本気で妬み、あまつさえそれを行動に移すような人間……お前さんがそれを卒業できない限り、愛を知ることはないだろう」
「香琉ちゃん、悪い子じゃないもん! 今まで香琉ちゃんだけ苦しめられてきて、誰も何もしなかったのに、どうして香琉ちゃんが行動しただけで止められなきゃいけないの! なんで香琉ちゃん『だけ』が、人を傷つけちゃいけないの!」
満身創痍の体を震わせ、香琉は何度も声を張り上げた。されど長治は、彼女を憐みはしない。
「俺は前科者だ。だから刑務所にいたこともあるし、悪人を生み出しているのが世の中であることも理解している。だが、俺はその上で翔也を傷つけようとしたお前さんを許さない……ただそれだけだ」
そう告げた彼は、両手から高火力の光線を放つ。眩い光の中、香琉は崩れ落ちる。
街中のスピーカーから、美美の声が響き渡る。
「浪風香琉、綾川長治の曲解により戦闘不能デス。残るプレイヤーは五名デス。これより転送とインターバルを開始しマス」




