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ラディカル・シティ  作者: やばくない奴
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ほたるの天下

 あのゲームがほたるの優勝に終わったことにより、社会情勢は大きく変化した。世界各地は平沢財閥(ひらさわざいばつ)に実権を握られ、財閥に反対した国家はことごとく物資を止められていった。半導体はおろか、石油燃料の類も供給されない。結果、様々な国は無理な自給を強いられ、その副作用として物価が高騰していった。

「おかあさん、おなかすいた」

「お昼食べたでしょ? 今の私たちは一日一食――それが限度なの」

「どうして?」

「今の時代、何をするにも平沢財閥にお金を払わないといけないの。でも、国がそれを拒んだから、私たちはひもじい思いを強いられている」

「どうして……こんなことに……」

 この変化で大打撃を受けたのは、数多の貧困家庭だ。路上では、様々な生活困窮者が物乞いをしている。

「食事をください……」

「もう三日も、何も食べてないんです」

「助けてください」

 彼らもまた、平沢財閥に人生を狂わされた者たちだ。ある者は、水道やガスを止められた。ある者は、住宅からの退去を命じられた。かくすれば、その反動も計り知れないものとなる。

「嫌だ! 切らないで!」

 一人のやせ細った少年が懇願した。彼の伸ばされた腕の上には、大きな包丁が構えられている。

「悪いね、ボウズ。このご時世だ……レンタルチャイルドくらい使わねぇと生きていけねぇのよ」

「レンタルチャイルド……?」

「貸し借りできる物乞いだ。五体満足の大人より、体が欠損したガキの方が観光客が金を落としてくれるんだよ。それを元締めの俺が回収するってわけだ」

 生活基盤を破壊された国々では、当然ながら治安も破壊される。これが「ほたるの天下」であった。



 *



 同じ頃、バスローブに身を包んだほたるは、タワーマンションの最上階から都市を一望していた。

「最高だね。この街の全部が、わたしのものなんだから」

 彼女のいる部屋の内装は、その権威を如実に示している。虎の皮から作られたカーペットに、鹿のはく製。アンティークな雰囲気を醸す、蓄音機のついたレコードプレイヤー。壁には様々な画家による絵画が飾られており、天井にはシャンデリアが吊るされている。ほたるは強化ガラスに背を向け、それから玉座のようなソファに腰を下ろす。それからしばらくして、部屋の扉からノックの音がした。

「どうぞ」

「お嬢様、食事をお持ちしました」

「今日は?」

「前菜のトリュフソースの卵グラタン、サラダ、ロブスタービスク、マンチーニパスタを使用したイカ墨のスパゲッティ、A5ランクのローストビーフ、そしてクリームブリュレになります」

「よろしい。入りなさい」

 扉が開かれ、配膳ワゴンを持った使用人が姿を現す。運ばれてきた料理は、いずれもクロッシュを被せられていた。使用人はチェック柄のテーブルクロスの上に、淡々と料理や食器を並べていく。その所作には、一切の迷いがない。さっそく食卓についたほたるは、食事を楽しみ始めた。ロブスタービスクにフレッシュミルクを入れ、彼女はそれをかき混ぜる。それからスプーンを手に取り、彼女はビスクの旨味を堪能する。そして彼女はこう思う。ああ、これが己の望んだ生活だ――と。


 突如、使用人は話を切り出す。

「お嬢様。お客様のお出でです。相手は、あの抜山蓋世(ばつざんがいせい)さんです」

「……そっか。もう次のゲームが始まるんだね。わたしが食事をしている間に、お召し物を用意しておいて。他のプレイヤーが、今の世界を変える望みを叶えてしまうかも知れないから」

「かしこまりました」

 彼はすぐに部屋を後にした。



 それからしばらくして、ほたるは食事を終えた。着替えも終え、彼女は準備万端だ。そこに蓋世が現れ、部屋の内装を見渡した。

「……ずいぶんな成金趣味に成り下がったな、女」

 それが彼の抱いた感想であった。

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