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ラディカル・シティ  作者: やばくない奴
それぞれの望み
21/43

プロファイル

 インターバルの最中、ほたるは廃墟のオフィスを散策した。彼女が引き出しの弾性を極端に下げ、まるでガムを伸ばすかのように施錠された引き出しを伸ばしていく。彼女が集めているのは、もちろん輪ゴムだ。これから雄生と戦うにあたって、輪ゴムは主戦力となる武器である。

「やはり、これが一番いい」

 そう呟いた彼女は、薄ら笑いを浮かべていた。


 やがてオフィスの跡地から輪ゴムを集め終わったほたるは、その場を後にした。その先で彼女が出くわしたのは、雄生(ゆうき)である。


 先に口を開くのは、ほたるだ。

「……最後のプレイヤーは、わたしと雄生みたいだね。美美(メイメイ)の放送では香琉(かおる)翔也(しょうや)を倒していたみたいだけど、どうやってベビースキーマを克服したのか興味深い」

 あの幼子に手を上げられるプレイヤーは、ごく少数に限られている。そのうちの一人が香琉であったことに、ほたるは驚きを隠せなかった。その試合に立ち会っていた雄生は、淡々と説明する。

「香琉の価値基準が壊れていたんだ。確かに、アイツはベビースキーマの影響を受けていた。だが、香琉のしつけや教育は、体罰を前提としているらしい」

 それが彼の見てきた全てだ。元より、あの少女の家庭環境は劣悪だった。ゆえに彼女は、「体罰」の名目であれば翔也に暴行を加えられるのだ。


 ほたるは語る。

「育ちが悪いんだね。あの子、きみに対しても感じ悪かったでしょ? 中学は不登校になって、高校は中退。叶える夢も社会に迎合するものではなく、社会に対する怨嗟。そんな他責思考の人間だから、香琉はいじめられたんじゃないかな」

 その憶測がどこまで正確かは定かではない。さりとて、そんなことは些末なことだ。問題は、彼女があまりにも香琉を腐していることだった。

「そ、そこまで悪く言わなくてもいいんじゃないか?」

 そう返した雄生は、少しばかり青ざめていた。それでもなお、ほたるの言動は変わらない。

「だけど、香琉はわたしたちの子供同然の翔也を倒した。更にあの子は、誰も生まれない世界を望んでいる。自分一人のミクロな苦しみを、よりマクロな社会問題だと誇大解釈し、何もかもを外的要因のせいにしたがっている」

「黙れ! オレもアイツのことは気に食わないが、過ぎた暴言は胸糞が悪い!」

「どうでもいい人間のどうでもいい人生にスポットライトが当たらないのは当然の摂理。香琉はそれを『社会問題の矮小化』と信じてやまない。きみは男だから女の弱さを許せてしまうんだろうけど、自分と歳の近い男が同じような言動をしていたらどう思うの?」

 その問いは、ある種核心をついていた。雄生は少し考え、それから己の非を認める。

「……確かに、その場合ならオレも矮小化していたかも知れないな」

「そうでしょ? 香琉は自分を好きなのに嫌いなんだよ。でも自分を直接嫌いになるのが怖いから、社会問題や家庭環境を免罪符にしてしまう。弱者が正当化されたところで、弱者が勝てるようになる仕組みが確立されるわけでもないのにね」

「なぁ、ほたる。アンタは、香琉のことが嫌いなのか?」

「当然だよ。上手くいかないことを何かのせいにする人間を、誰が好きになるの? 雄生……次はアンタがアイツの仮想敵にされる可能性だってあるんだよ。今は、世の中が悪い――これが『男が悪い』に変わる可能性すらある」

 ほたるの罵詈雑言の応酬に、彼は狼狽するばかりだ。

「あ、あんまり……人のことを悪く断定しない方が良いんじゃないか? そ、そうだ。アンタの話を聞きたい。アンタは何故、ライフラインにこだわるようになったんだ?」

「わたしはただ、普通の親の元に生まれて、普通に小遣いやスマホを没収されてきただけ。誰もが通る道の中で、私は気づいたんだ。ライフラインを握る人間には、誰も逆らえない」

 ごくありふれた家庭――その中で点と点を結んでしまったのが、ほたるという少女であった。

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