再起動
インターバルの最中、雄生の前には美美が現れた。
「オニイチャン……オニイチャン……」
その声は二重となっており、音質が悪かった。雄生の前で、これまでの記憶が反芻される。今までの美美の不具合は、おおよそ妹の雪吹を連想させるものだった。して、メディカル・ポッドの中で、彼は雪吹に助けを求められる夢を見た身の上だ。
「アンタ、もしかして……雪吹なのか?」
そう訊ねた雄生は、眉をしかめていた。しかし美美には、彼の質問に答えるだけの理性がない。
「オニイチャン……オニイチャン……」
うわ言のように繰り返された言葉に、雄生は寒気を覚える。この時、彼は思い出す。妹が誘拐されたあの日、彼の目の前に立っていたのは龍造だったのだ。
「この街に、オレの妹が……?」
そう呟いた雄生は、少しばかり動揺していた。そんな彼の背後から、一つの人影が忍び寄る。
「やれやれ、まァた不具合かァ」
――夜露龍造だ。彼がフィンガースナップをするや否や、美美の全身にノイズが走った。彼女の姿はアンチエイリアスを失い、どことなく解像度の低いホログラムと化す。周囲には緑に光る何らかの構文が浮かび上がり、美美の不安定な立体映像は再構築されていく。
「なんだ? 何が起きている!」
目の前で繰り広げられる光景に、雄生は狼狽した。
「見てわからないのかァ? 美美を再起動しているだけだァ」
それが龍造の答えだった。やがて「再起動」を終えた美美は、その存在が安定し始める。
「再起動が終わりマシタ。先程のエラーの原因は不明デス」
そこに雪吹の影はない。彼女はもう美美でしかないのだ。
雄生は問う。
「答えろ! オレの妹は、今どこで何をしているんだ!」
その声色は怒気を帯びていた。その威圧に臆することもなく、龍造はこう切り返す。
「それを知りたかったら、ゲームに勝って望みを叶えることだなァ」
嫌に無責任な男だ――雄生はそう思った。彼は義憤に震え、龍造の胸ぐらを掴み上げる。
「アンタが雪吹に何かしたんだろ! そうに決まってる! あの日、雪吹をさらったのは、他の誰でもなくアンタだった!」
「おやおやァ……俺のことを覚えていてくれたのかァ。実に光栄だねェ」
「オレの質問に答えろ! 雪吹はなぁ、たった一人のオレの妹なんだ! 血を分かつ兄妹なんだ! 家族に替えは効かねぇって言ってんだ!」
閑散としたゴーストタウンに、雄生の怒号がこだました。龍造は胸ぐらを掴んできた腕に両腕を掛け、そのまま雄生を足下に落とす。その挙動には、一切の迷いがなかった。
「護身術か……!」
雄生は眼前の宿敵を睨みつつ、おもむろに立ち上がる。
「御名答。こんな猛者だらけの閉鎖空間でゲームマスターをやっているんだァ、自分の体くらいは守れる」
「アンタ、何が目的だ? 望みを叶えるとか言ってラディカルたちを戦わせて、それで何を満たされているんだ!」
「ククク……少しばかり、遺伝子の話をしようかァ。オス駆動進化説って知ってるかァ?」
突如振られた突拍子もない話に、雄生は怪訝な顔をする。
「メスよりもオスの方が突然変異を起こしやすく、生命の進化に大きな影響を持つとする学説か」
「よくご存知で。だがオスが進化を促す理由は、突然変異だけじゃねェ。アルファが生き残り、子孫を残す。その繰り返しが進化を促しているのが自然界だ」
「その話は、ラディカル・ゲームに関係があるのか?」
「人類は摂理ではなく、制度に守られて生きてきた。だから衰退した。だが奇跡的に、ラディカルと云う種族が生まれ、今は人類に代わる新たな頂点捕食者の候補となっている」
「……つまりアンタは、このゲームを通してラディカルを選別しているのか!」
ここに来て、ようやくゲームの趣旨が明かされた。されど肝心の雪吹の所在は、依然不明のままだった。




