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ラディカル・シティ  作者: やばくない奴
それぞれの望み
17/19

過集中

 香琉(かおる)に勝利した雄生(ゆうき)は、次の標的を探し始めた。後一人でも脱落すれば、インターバルが訪れる。さっそく二つの人影を見つけた彼は、廃車の陰に身を潜めた。彼の視線の先では、叶得(かなえ)彼方(かなた)が対面している。

「グルァァァ!」

 雄叫びを上げた叶得が、瞬間移動のように間合いを詰める。それから繰り出されるラッシュは、強敵の身を徐々に退けていく。

「いいのですか? 柳田(やなぎだ)さん。このまま筋肉を酷使すればっ……」

 頬を殴られ、彼方の言葉が途切れる。そもそも、彼の言葉は相手の耳に届いていない。

「ウルァ!」

「君の筋繊維はっ……」

「オルァ!」

 一発、また一発と、叶得の猛攻が続いていく。妙なことに、彼女の体にはまるで異変が起きていない。

「……仕方ありませんね」

 そう呟いた彼方は、トレンチコートの内ポケットからメスを取り出した。彼の俊敏な動きにより、叶得の身は瞬く間に数多の切り傷を刻まれていく。それでも彼女は、痛みを感じていない。この状態を、雄生は一目で理解する。

「過集中……!」

 人は物事に過剰に集中している時、己の疲労や時間感覚などを感じなくなることがある。それは過集中と呼ばれ、より短い時間で一つのタスクを片付けることに特化した状態だ。


 叶得は一度、曲解によって間合いを離す。

「ガルルルル……」

 唸る彼女の構えは、クラウチングスタートだ。そのまま勢いよく飛び出した彼女は、瞬時に間合いを詰める。その様はさながら、人間の皮を被った獣のようであった。

「っ……!」

 彼方は殴り飛ばされる。その後方には、間合いの角度を変えた叶得が回り込む。そこで繰り出された回し蹴りにより、彼方は崩れ落ちた。


 この時、雄生は確信する。

「この勝負、叶得が勝つぞ……」

 今のところ、深手を負っているのは彼方の方だ。同時に、まだ一つ片付いていない謎がある。

「しかし、何故アイツには彼方の曲解が効かないんだ?」

 これまで、あの闇医者は様々なプレイヤーに病状を与えてきた。そんな彼を前に健康体を保っている者がいることは、あまりにも不可解なことである。


 されど、叶得の無双も長くは続かない。その動きは鈍り始め、集中力は低下し、呼吸は荒くなっていく。

「過集中の虚脱だ……!」

 雄生は知っている。過集中の持続時間には限界があり、それを迎えた者は急激な脱力感に襲われてしまうことを。


 ここにきて、ようやく彼方は本領を発揮する。両目を赤く光らせつつ、彼は語る。

「過集中が切れましたね。これで君の脳は上手く働きません。闘志や活気も失われ、君は振りかかる疲労によって気絶するでしょう」

 突如、叶得は立ちくらみを味わった。彼女の視界が揺らぎ、焦点が合わなくなる。今の彼女は、眼前の強敵を二重の人影として視認している。

「ボクはまだ、戦える……!」

「脳が酸素を欲している一方で、君は私のメスによって流血しています。だから呼吸が苦しいのです。君の体は、体力を取り戻すために眠ろうとしています」

「抗う! 勝つ! ボクは今までも、これからも、闘争に全てを捧げる!」

 威勢だけは上等だ。さりとて、今の彼女に勝機はない。

「君は今から、気絶します」

 彼方がそう告げたのと同時に、叶得は膝から崩れ落ちる。それから筋肉質な肉体に力を入れることも叶わず、叶得は気を失った。


 街中のスピーカーから、美美(メイメイ)の無機質な声が響き渡る。

「柳田叶得、夢宮彼方の曲解により戦闘不能デス! これより転送を開始しマス! 残るプレイヤーは五人デス、一時間のインターバルを設けマス!」

 圧勝とまではいかないものの、彼方は勝利した。後四人のプレイヤーが脱落すれば、彼は恋人の記憶を呼び覚ますことができる。

「かなり深手を負ってしまいましたね。美美、私をメディカル・ポッドに転送してください」

 そう要求した彼方は、満身創痍の有り様だった。

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