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ラディカル・シティ  作者: やばくない奴
それぞれの望み
16/19

しつけ

 塀の中を出た雄生は、再び翔也と合流する。今回、翔也は一頭のライオンを連れていた。彼を守らなければならない以前に、雄生には目標がある。

「オレが妹に会うには、アンタを倒さないといけないのか」

「でも、ぼくが勝たないと、動物たちが住処を追われてしまう」

「ならオレたちは敵か。だけど、アンタを傷つけることだけはできねぇな。あの彼方ですら、アンタを攻撃できないんだもんな」

 ベビースキーマの曲解――それはこのゲームにおいては非常に厄介なものだ。曲解の影響を受けない蓋世がいない今、翔也に攻撃できる者はかなり限られている。


――直後、掌に収まる程度の瓦礫が飛び、ライオンの身を襲った。


 ライオンは過剰な痛みにのたうち回り、その身には幾度となく投石されていく。一見痛みには鈍そうな彼が今、曲解された痛みに悶え苦しんでいる。やがて彼が気絶した時、その場には一人の人影が姿を現した。

「やっほ。香琉ちゃんだよ。やっぱり人類が繁栄したのは、投擲ができるからだよね」

 香琉の登場だ。彼女の曲解をもってすれば、猛獣すらも極端な痛みによって気絶するらしい。しかし翔也がいる限り派手な行動は取れない――少なくとも、雄生はそう思っていた。直後、香琉は駆け足で間合いを詰め、翔也を勢いよく殴り飛ばした。

「なっ……アンタ、年端もいかねぇガキを!」

 雄生が驚いたのも無理はない。本来、ベビースキーマを曲解している少年に攻撃を仕掛けられる者は、数少ない例外だけなのだ。打撃による痛みは最大限にまで曲解され、翔也も気絶する。

「谷村翔也、浪風香琉の攻撃により戦闘不能デス。転送を開始しマス。残りプレイヤーは七名デス」

 転送が開始され、彼は大気に溶け込むように消えていった。


 香琉は語る。

「香琉ちゃんの知る世界では、体罰も『しつけ』のうちだよ」

 元より彼女は、劣悪な家庭環境に身を置いてきた女だ。そんな彼女からしてみれば、相手を庇護すると攻撃することは両立し得る。この少女こそまさに、彼方がごく一部の例外と称していたラディカルのうちの一人なのだ。

「許さねぇ……香琉!」

 雄生は激高した。気づけば、その握り拳は眼前の少女に叩き込まれていた。

「女子を殴るなんて、最低。痛くないけどさ」

「黙れ。オレは妹と再会しなければならない。こんなところで、暴力をためらうわけにはいかねぇんだ!」

「それは香琉ちゃんも同じことだよ。香琉ちゃんは、これから生まれてしまうであろう全ての命を救いたい。間違っているのは生きづらい世の中だとよく言われているけど、その世の中を変える力すら持たない者は子供を作るべきじゃない!」

 両者ともに、譲れない信念を持っている。香琉はアッパーカットを繰り出し、雄生の顎を穿つ。続いて彼女は構えを変え、相手のこめかみに肘打ちを炸裂する。それから打撃で鼻をへし折った彼女は、それまで無痛の状態に設定していた曲解を激痛へと変える。

「っ……!」

 雄生は今、立っているのもやっとの有り様だ。彼は曲解による再生を試みたが、依然として激痛は体に残っている。そんな彼の眼前には、次の拳が迫っていた。その動きは、止まっているように見えた。

「食らえッ!」

 直後、雄生は香琉の懐に潜り込み、手際よく足払いをした。香琉はその場で転倒し、そのままマウントポジションを取られる。一発、また一発。痛みを忘れた男による猛攻は止まらない。


 極限状態で力を発揮する人間は、脳がベータ・エンドルフィンを分泌する。その効果には、鎮痛や興奮、ひいては多幸感も含まれている。


 雄生が猛烈なラッシュを決めた末に、香琉は気を失った。スピーカー越しに、合成音声が響き渡る。

「浪風香琉、御堂雄生の暴行により戦闘不能デス。ただいま、転送を開始しマス。残るプレイヤーは、六名デス」

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