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ラディカル・シティ  作者: やばくない奴
それぞれの望み
15/19

前例

 あれから雄生(ゆうき)は、宛もなく街を練り歩いた。ゲームはまだ始まっていない。ゆえに、本来ならまだ戦う者はいないはずだ。


 その常識は、すぐさま崩されることとなる。


「ウルァ!」

「遅いッ!」

「グルァア!」

「ぬるいッ!」

「シャァア!」


 塀の奥から、二人の人物の声がした。咆哮しているのは少女、それに応えているのが男だ。雄生は出入り口を見つけ、塀の奥を覗き込む。そこでは、勇ましい顔つきの叶得(かなえ)蓋世(がいせい)と睨み合っていた。

「ハッ!」

 彼女は大声を上げ、渾身の右ストレートを繰り出す。その拳は、眼前の強敵の人差し指で受け止められる。それからも叶得は猛攻を続けるが、蓋世は依然微動だにしない。そこには明確な格差があった。

「雨垂れ石を穿つ――という言葉があるッ! だが、それを実現するにあたって要される年月は計り知れないものだッ!」

「さっきから、防戦一方じゃないか。キミの力も見せてみろ!」

「ならば遠慮は無用ッ! だが本気を出すに値せんッ!」

 そう言い張った彼は、自らの中指を親指の腹で押さえた。直後、中指はバネのように飛び出し、叶得の額に命中する。

「なっ……!」

 瞬きをする暇もなく、彼女は後方の壁にめり込んだ。脳が激しく揺れたのか、彼女の視界は曇りつつある。一方で、蓋世はじりじりと間合いを詰めてくる。手加減こそはしているものの、そこに容赦はない。


 その時である。

「そこまでだァ」

 突如、その場に緋色の頭髪をした男が現れた。男は金の毛皮のついたコートを羽織っており、その裾は強風に吹かれてなびいている。

「フッ……ゲームマスターからのお達しとあっては、続けるわけにもいくまい」

 そう呟いた蓋世は、叶得に背を向けた。それから叶得に反撃されることもなく、彼はその場を後にしたのだった。


 塀の出入り口に雄生がいることに気づき、ゲームマスターは自己紹介をする。

「よォ、雄生。俺は夜露龍造(よつゆりゅうぞう)――ゲームマスターだァ」

 あの強者の集まりをまとめ上げているのは、まさしくこの男だ。その並々ならぬ雰囲気に、雄生は生唾を飲む。続いて、龍造は叶得の方へと目を遣った。叶得に睨み返されてもなお、彼はまるで動じない。

「次はない。もう二度と、ゲーム外で戦うな」

「ああ、わかった」

「ククク……素直だねェ。俺はお前の闘争心をまるで理解できねェよ」

 そう言い残した龍造は、すぐにその場を去っていった。



 その場に残された雄生は、叶得に声をかける。

「えっと、アンタは、その……戦うのが好きなのか?」

 その声に振り向き、叶得は歯を見せて笑う。

「にししっ……当然だ! ボクが思うに、闘争は何よりも生を表すんだよ!」

「闘争が、生を表す……?」

「イノベーション、進化、そして革命。これらは全て、『前例』に勝利することで為し得るものだ。野生でも同じだ。群れのボスという前例を破ることで、新たなボスが君臨する。この世に生まれついた時点で、全ての生きとし生けるものは戦っているんだよ!」

 この少女は、筋金入りの戦闘狂だ。その表情の嬉々たるは、まるで好きなアニメを語る幼子のごとしだ。

「前例への勝利……ね。だからアンタは、蓋世に挑んだというわけだ」

「その通りだ。あの前例を壊せば、ボクが次の前例になる。いずれ、ボクという前例もまた、新たな前例に上書きされるだろう。世の中は、そうやって回っているんだよ!」

「そっか。アンタの言ってること、オレは一理あると思う。前例があるからこそ可能性がある。壁があるからこそ超える。人間の歴史を営んできたのは、いつだって『前例』の更新だったと言える」

 意外にも、雄生は叶得の考えに理解を示した。彼は何やら、相手の言い分が理に適っていると感じたらしい。

「ボクの望みは、これからもこのゲームが続いていくことだよ!」

 そう語った叶得は、あまりにも純粋な目をしていた。

挿絵(By みてみん)

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