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ラディカル・シティ  作者: やばくない奴
それぞれの望み
14/19

出生

 雄生(ゆうき)が病院を出ると、広場のベンチには香琉(かおる)が腰かけていた。香琉は彼の存在に気付いたが、あえてスマートフォンを睨みつけている。彼女はあまり、コミュニケーションを望まない性分なのだろう。それでも雄生は、声をかけることをためらわない。

「やぁ、オレは御堂雄生(みどうゆうき)。アンタは?」

浪風香琉(なみかぜかおる)。香琉ちゃんになんの用? ナンパだったら、死んでね」

「いやいや……オレはただ、新入りだから知りたいことがあるだけだ」

 彼はそう言ったが、その目の前の少女は猜疑心に満ちた眼をしている。その表情はさながら、「早く去れ」とでも言いたげだった。

「何を知りたいの?」

「アンタが何故、ラディカル・ゲームに参加したのかだ」

「ふぅん。じゃあ先ず、あんたの夢から教えてよ」

 その仏頂面が揺らぐことはない。眉間にしわを寄せている彼女は、明確に敵意をあらわにしていた。


 それでも雄生は退かない。

「オレの夢は、生き別れた妹と再会することだ」

「ふぅん。シスコンなんだね」

「シスコン……なのかなぁ。それで、アンタの夢は?」

 命がけのゲームに参加している以上、香琉にも何らかの目的があるはずだ。少なくとも、彼はそう確信していた。香琉は気怠そうに欠伸し、それから返答する。

「誰も生まれない世界」

「はい?」

「誰もこんな腐った世界に生まれるべきじゃない。誰も痛みを望んでなんかいない。だから、香琉ちゃんは誰も生まれない世界を望んでる」

 思想が強い――雄生はそう思った。さりとて、思想は人生をかけて練り上げられた方程式から導き出されるものだ。彼はそう感じている。

「差し支えなければ、どうしてそんな風に考えているのか教えてくれないかな?」

「……香琉ちゃん、中学生の頃から色々あったんだ。思い返すだけで、死にたくなるようなことがね」

「話せそうか? 無理なら無理でいい」

 雄生とて、無理に相手の事情を深追いするような真似はしない。香琉は深いため息をつき、話し始める。

「話すよ。あれは――」



 *



 中学時代、香琉はいじめに遭っていた。私物や弁当をトイレに捨てられることも、机に罵詈雑言を書き殴られることも、ひいては頭から水を浴びることも日常茶飯事だった。

「香琉、キモいんだよ」

「しーね! しーね!」

「なんで『普通』にできないの?」

 同級生たちの言葉は、いずれも鋭い刃だった。水浸しの香琉は三人の女子から暴行を受け、廊下にうずくまる。彼女は助けを求めていたが、誰もが見て見ぬふりをした。そんな彼女が登校拒否を繰り返すようになるまで、そう時間はかからなかった。


「お母さん。香琉ちゃん、学校でいじめられてるの。もう、学校に行きたくない」

 ある日、香琉は母親に現状を打ち明けた。されど母親は、まるで聞く耳を持たない。

「あんた、昨日も学校休んだでしょ? 嫌な奴なんて、社会に出たらいくらでもいるの。我慢しなさい!」

 それが母親の答えだった。そんな肉親を睨みつけ、香琉は自室に閉じこもる。この当時から、彼女は親との意思疎通が困難な状況にあった。


 やがて学校側からの指示により、香琉は心療内科を受診することになった。

「三か月間、娘さんを休学させてください。今の香琉さんは、適応障害の疑いが……」

「うちの香琉が病気だって言いたいんですか! ありえない! 低評価つけられたいの?」

「い、いや、私はただ、客観的な事実に基づいて」

「もういい! 行くよ、香琉!」

 結局、母親の意向により、香琉の診断書が作られることはなかった。



 やがて香琉は高校に上がったが、二か月もしないうちに中退した。無機質なインターネットだけが、彼女にとっての唯一の拠り所だったからだ。それから彼女は、長期間にわたって部屋に引きこもるようになった。



 *



「――だから香琉ちゃんは、出生を絶対的な悪だと思ってるの」

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