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ラディカル・シティ  作者: やばくない奴
それぞれの望み
13/19

人生

 刑務所に収監された長治(ちょうじ)は、学びを得た。受刑者の多くが生活困窮者であり、社会復帰の困難な人柄だったのだ。所内では、囚人同士の暴行沙汰が日常茶飯時だ。

「やめろ、やめろよ! また刑期が延びるぞ!」

「どうせここを出ても、おれは人並みの生活を送れねぇんだ! 黙って殴られてろ!」

「ひっ……ひぃ……」

 長治の目に留まったのは、二人組の男だった。一方は目が血走り、もう一方は怯えている。されど長治は、彼らと関わり合いになることを避ける。理由は単純――金にならないからだ。ただし、彼は二人を憐れんでもいた。多様な社会不適合者の集うその場所は、長治に金の重要性を嫌というほど吹き込んだのだ。


 そんな喧騒の中で二年半を過ごし、長治は出所した。相変わらず連帯保証人を確保できなかった彼は、ネットカフェや漫画喫茶を寝床にした。無論、金は湯水のように湧くものではない。時折、長治は寂れた公園で寝ることも増えていった。

「刑務所にいる方が、幾分マシじゃねぇか」

 内心、彼はそう感じていた。事実、生活基盤がこれほどまでに不安定であれば、塀の中の方が余程安全を確立されているだろう。彼は派遣アルバイトで日銭を稼ぎ、いつ路頭で絶命してもおかしくない日々を送っていった。


 そんな長治を拾ったのは、一人の地上げ屋だった。

「あんたが綾川長治(あやかわちょうじ)か」

 この出会いが意味することは、彼が間接的に地主との繋がりを得たことだ。


 それからアパートの一室を与えられた長治は、様々な人々を土地から追放していく。

「うちのモンがゴミをバラまいたみたいで、すまなかったね。だけど店を畳まないと、またバラまかれると思うぞ?」

「お前さんは日照権を巡る裁判で負けたんだ。もうじきこのビルも解体される」

「みかじめ料を払えないようじゃ、この店を守ることはできないな。もちろん俺は暴対法を知っているが、法だけでは守れない土地もある」

 それが社会復帰後の彼の日常だ。それが彼のルーティンだ。ひとたび地上げ屋の仕事を終えれば、彼はよく居酒屋に入り浸った。これまで節約を余儀なくされてきた長治からすれば、飲酒はもはや娯楽ではない。


――道楽だ。


 そんな生活を二十年近く営んだ長治は、ついに大いなる力を得る。

「なんだこれは……光が、光が俺の意のままに……?」

 そう――彼のラディカルとしての素質が発芽したのだ。元より彼は、逆境から立ち上がった身の上だ。そんな彼が曲解をものにするまでに、そう時間はかからなかった。


 ある日、彼の前に筋骨隆々の大男が現れる。

「貴様が綾川長治――光学密度を曲解するラディカルか」

――抜山蓋世(ばつざんがいせい)だ。この当時から名声に恵まれていたこの男は、圧倒的な威厳を放っていた。

「こいつは驚いた。お前さん、あの抜山蓋世だろう?」

「左様ッ! 己が抜山蓋世――常に頂点を志す者ッ! 貴様の生活は、まだ安泰とは程遠い。だが、ラディカル・シティに来れば全てを変えられる!」

「その街がどこにあるのかは知らないが、行ってみる価値はありそうだ。アクセスを教えてくれ」

 長治はラディカル・ゲームのプレイヤーとなった。



 *



「――と、まぁ前途多難な生い立ちだ。お前さんが欠伸をしなかったことを光栄に思う」

 以上をもって、長治は自らの過去を語り終えた。翔也(しょうや)は話の大部分を理解しなかったが、雄生(ゆうき)には深刻性がよくわかる。

「綾川さん……アンタ、スゲェ生き様してんな」

「だが、これもまた人生だ。大いに意味がある」

「でも、普通の人生だったならここまで苦しまずに済んだ」

「憐れむな。人が苦痛から学べる真理は山程ある。どんな教育者も教えてくれないことだ」

「倫理的な正しさと、世の中の仕組みは別――ただそれだけのことを、教科書は一切教えないもんな」

 眼前の男の達観した理念を、彼はただただ見上げるばかりであった。

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