執着の源泉
次に雄生が合流した相手は、翔也だ。
「お兄ちゃん、もう起きたんだね!」
嬉々とした笑みを浮かべつつ、翔也は雄生に抱き着く。そんな彼の頭を優しく撫で、雄生は訊ねる。
「翔也は、どうしてこんな危険な街に来たんだ?」
それは至極真っ当な疑問だ。己の力だけでは戦えない小児は、悪く言うならばこの街に相応しくなどない。かくすれば、眼前の少年にも己なりに事情があるはずだ。
翔也は語る。
「動物たちと、ずっと一緒に暮らしたいからだよ。だって、皆すぐに撃たれちゃうんだもん」
何やら、彼は人生のほとんどを野生動物と共にしてきたらしい。その不可解な情報を、雄生はあまり咀嚼できていない。
「動物たちと暮らしてきたって……翔也は人間だろ?」
「ぼくは孤児だったから、ヒグマに育てられたんだ。だから、読み書きもできないんだ。これまでも、これからも、ぼくは野生を生きていくんだ」
聞けば聞くほど、この少年が過酷な人生を歩んできたことは、否が応でも伝わってくる。
そこにまた一人、プレイヤーが姿を現す。
「多額のベーシックインカムさえあれば、お前さんも一人で生きていけるようになるだろう」
――綾川長治だ。彼の第一声は的を射ていたが、それでも翔也の考えは変わらない。
「ベーシックインカムってやつ、よくわかんないけど、ぼくは要らないよ! 人間の世界で生きるより、山で暮らす方が楽しいもん!」
「……そっか。だがな、ボウズ。この国において土地というものはすぐに開発されてしまう。野生にすがって生きていれば、いずれ生きる術を失うことになるぞ。だからちゃんと学校に……」
「学校、嫌い! 勉強なんかしなくても、動物たちがぼくを守ってくれるもん!」
やはり小児には、文明の価値はわからないらしい。両者のやり取りを傍目に、雄生は深いため息をつく。それから彼は、長治に訊ねる。
「アンタは何故、そこまで金にこだわるようになったんだ?」
執着には理由がある――それが彼の考えだった。長治はテンガロンハットの位置を直し、こう聞き返す。
「話せば長くなるが、聞きたいか? おっさんの昔話ほど退屈なモンがこの世のどこにある?」
案の定、彼の執着には背景があるようだ。
「ああ、そのおっさんの昔話とやらを聞かせてくれ」
そう頼んだ雄生は、真剣な眼差しをしていた。さっそく、長治は過去を語り始める。
「その昔、まだ俺がクソガキだった頃――」
*
少年期、長治は母子家庭で育った。その環境は、断じて健康的ではない。彼の母親が水商売で生計を立て、薬に金を溶かしていたからだ。彼らの住むワンルームの床には、いつも錠剤の瓶が散らばっていた。こともあろうに、母親は息子の目の前でオーバードーズを繰り返していたのだ。飲んでは吐き、また飲んでは吐く。その行程は、彼女が気絶するまで続行される。当時の長治は「普通」の家庭環境を知らなかったが、薄々と母親の異常性を察しつつあった。
母親が亡くなったのは、長治が十九の時だ。長治は有り余る借金を背負えず、相続を破棄する。無論、それは彼自身がゼロから資金を蓄えなければならないことを意味していた。
そこで長治が探したのは、住み込みで働ける職場だ。無論、ろくな学校に通えなかった彼が仕事を選べるはずもない。その上、頼れる身寄りのいない彼には連帯保証人もいない。とどのつまり、長治は賃貸契約を結べないのだ。
やがて彼が手にした職は、貸金業だった。業務内容は、債務者を恫喝して金を取り立てるといったもの――決して安定した仕事ではない。さりとて、この劣悪な業務内容を内部告発すれば、長治は生活基盤を失うこととなる。
そんな彼が取り立て屋として働き始めてから一年後、金融機関は取り締まられた。その日から二年半ほどの期間を、長治は刑務所で過ごすこととなる。




