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ラディカル・シティ  作者: やばくない奴
それぞれの望み
11/19

「オニイチャン……コロシテ……」

 雄生(ゆうき)の目に、暗闇の中で苦しむ雪吹(ふぶき)の姿が飛び込む。雪吹の身は軽くノイズがかかっており、稀に美美(メイメイ)の姿に変わる瞬間もある。彼女は今まさに点滅しており、周囲の空間も酷く歪んでいる有り様だ。

「雪吹! 待ってろ! オレがアンタを、必ず助けて見せる!」

 そんな決意を口にした雄生は、彼女の方へと手を伸ばす。しかしその指先が触れるや否や、今度は空間そのものが激しいノイズに包まれてしまう。濁った電子音が数多鳴り響くこの場所で、雄生自身の存在も不安定になっていく。

「なんだ……何が起きている!」

 無論、その問いに答えられる者はいない。空間は崩壊し始め、彼はその歪みに呑まれた。



 雄生が目を覚ますと、そこはメディカル・ポッドの中だった。ホメオスタシスでは修復不能だった炎症は、全て完治している。それは彼からしてみれば、未知の技術でしかない。少なくとも、これは現代医学で為せることではないのだ。


 ポッドを出た雄生が最初に目にしたのは、彼方(かなた)だった。

「お目覚めですか? 御堂(みどう)さん」

 美美の話が本当であれば、この男はすでに望みを叶えたはずだ。ゆえに雄生は困惑する。

「何故、アンタがここに? もう、恋人を蘇生できたんじゃないのか?」

 そう訊ねた彼は、怪訝な顔をしていた。当然ながら、彼方がここに来たことには大いに意味がある。

「結論から言えば、私の恋人は意識を取り戻しました。ただし、それは記憶を喪失した状態でのことです」

「そうか。つまり今度は、恋人の記憶を取り戻すために戦うわけだな?」

「ええ、いかにも。闇医者である私ですら手に余る状況です……ラディカル・ゲームを頼る他ありません」

 そう――この街のゲームマスターには、医療を超越した力があるらしいのだ。それが曲解によるものか、あるいは科学技術によるものか――それは定かではない。ただ一つ言えるのは、いずれにせよゲームマスターの力が絶対的なものであるということだ。


 次に雄生が興味を持ったのは、ラディカル・ゲームの歴史だ。

「これまで、翔也(しょうや)はどうやって生き延びてきたんだ?」

「あの子はベビースキーマを曲解するラディカルですから、極一部のラディカルにしか攻撃されません。この私でさえも、彼に攻撃することなどできません」

「アンタにも、できないことがあるのか」

 今のところ、彼の知る限りでは、彼方に不可能などほとんどない。こと戦闘において、彼方が意のままに振る舞えないことは実に意外である。さりとて雄生が気になるのは、先述の「極一部のラディカル」の存在だ。そこで彼方は、説明を続ける。

「一方で、抜山蓋世(ばつざんがいせい)は耐性を対象としたラディカルです。曲解の影響を受けない彼は、何度もあの子を倒そうとしました」

「あんな年端もいかねぇガキを……ヒデェ大人だな」

「だから私は、あの子を保護することに専念してきました。私の曲解で、あの子を眠らせることで敗退させてきたのです」

 相も変わらず、彼の曲解は万能だった。その上、雄生はまだ、その曲解の対象を知らない。

「アンタ、本当に大体のことはできるんだな。アンタの曲解の対象は、さしづめ生理機能か?」

「それはお答えできません。敵対者に曲解を知られることは、このゲームにおいて不利になりますから」

「こんだけ強けりゃ、手の内を少し知られたくらいで負けるようには思えねぇけどな」

「私が最も警戒しているのは、平沢(ひらさわ)さんです。君も彼女の曲解を見たでしょう? その正体を知ったところで、その脅威にさしたる変化はありませんから」

「……そうだな。体を動けなくする、輪ゴムを実弾のように飛ばす。ただそれだけのシンプルな曲解が、オレたちにとってはあまりにも厄介だ」

 平沢ほたるは手強い――それはこの二人の総意だ。


 次のゲームも、油断大敵である。

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