ウェディング祭3
暖かな陽光が差し込み、白地の衣が光を反射する。
双子の白狐が舞台に立った。
ざわめきが止み、無数の視線が彼らへと吸い寄せられる。ただ並んで立つだけで、これほどまでに絵になるとは。誰もが息を呑んでいた。
一歩。爪先が板張りに触れる。ふたりは同時に左手を柄へと添えた。
次の瞬間。
シュッと一糸乱れぬ音を立てて、銀の刃が抜かれた。まるで鏡を挟んだような同じ軌道。
静寂の中、第一の型が始まる。
踏み込みと同時に、鋭い袈裟斬り。それを受け流す上段の払い。剣がぶつかることはない。斬り、捌き、退き、翻り、空を切る。振り下ろされる刃が空気を裂くたび、観客の心臓が跳ねる。その動きは剣術でありながら、舞踊のようでもあった。
風の音、布の擦れる音、そして呼吸音。やがて剣先が絡むように近づき、次の型に移行する。
左右に流れる動き。背を預け、背を離し、再び交わる。潮の満ち引きのように、一方が引けば、もう一方が進む。
己と剣を交えているかのような、そんな不思議な錯覚を覚えるほどにふたりは『同じ』だった。
誰とも知らぬ誰かが思わず声を洩らす。
振り上げられた刃が宙で弧を描く。
ジンリェンが斬撃を浴びせかければ、フーリェンがそれを捌く。
最後の一閃。同時に身を沈め、刃を前に構える。
銀の線が陽の光を受けて交差する。
そして静かに、剣が納められた。
沈黙。
観客がようやく息を吐いた瞬間、嵐のような拍手が巻き起こった。
双子の顔に笑みはなかった。しかしその瞳の奥は、どこか満足気に揺れている。
控えめに観覧席へと手を振る兄にならって、フーリェンも手をあげた。途端に舞台上に降り注いだ声に、驚きのあまり思わず一歩下がってしまう。
そうしてぐるりと視線を巡らせれば、客席の陰から手を振り返す獅子の男が視界に入った。隣には、狼の姿もある。
今日は舞台袖の警備だと言っていたはず。誰かに代わってもらったのか、それとも休憩の合間に来たのだろうか。何にせよ、見に来てくれたのは純粋に嬉しかった。
「行くぞ」と声をかけられ、隣を見れば兄の背が遠ざかっていく。
ゆらりと揺れる白い尾を追って、フーリェンは駆け足に舞台袖へと続く階段を降りたのだった。
――――
広間の一角。演武場の西側に設けられた通路。一般客の導線から少し離れた位置にあり、警備兵も疎らなその場所を、シュアンランとランシーは並んで歩いていた。
「はぁ、こういう地味な場所こそ忍び込まれやすいってのに。目立たねえって損だよな、俺たち」
「いやお前は歩いてるだけで十分目立ってるから。それ以上主張しようとするな」
「お前も大概目立つからな?」
そんなどうでもいいような話をしながら歩いていれば、観客席へと続く吹き抜けから突き抜けるような歓声が聞こえてくる。
「お、始まったな」
ランシーがぽつりと呟いたその瞬間、まるで空気そのものが震えたかのように、もう一度歓声が上がった。
規則正しい剣戟の響き。そして、抑えきれない観衆のため息。しばらくそんな上の音に耳を傾けながら見回りを続けていると、同じく警備兵の一人が駆け寄ってきた。
「お二人とも、こちらは我々で回します。もしよろしければ、少しだけ……。演武場の後方、空いています」
二人が足を運んだのは、観客席の後方。石造りの段差の陰に身を潜めるようにして、そこから舞台を見下ろす。
白と金の衣が翻る。刃が舞う。風すら味方にするような、しなやかで緊張感のある動き。
「ちょうど最後の型だな」
そんな獅子の言葉を流すシュアンランの視線は、舞台上の一人に向けられていた。双子の片割れ。向かって右側に立つ――氷のような静けさを湛えた白狐。舞台の真ん中で己のすべてを削り出すようにして剣を振るうその姿は、ひと際鋭く、そして美しかった。
その時だった。
ふと、舞台上のフーリェンがこちらを向いた。ほんの一瞬。確かに、琥珀の瞳と目が合った。
動けなかった。胸の内に、熱いものが満ちてくる。それは誇りであり、焦がれる想いであり――。
「見えてたな、お前のこと」
風が通り過ぎる。舞台上では、人々の歓声が最高潮に達していた。




