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王宮の獣護   作者: 夜夢子
第1章

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路地に潜む影3

【登場人物】

・セオドア→第二王子。シュアンランの主。温厚な理想家でありながら、政治的な駆け引きに長ける。

・ユリウス→第三王子。気弱な性格。ランシーの主。

重厚な扉が静かに閉じられた。室内には、四人の王子と報告を終えたばかりの二人の護衛が立っている。


「……防衛を突破し、王都の中央近くまで入り込まれた。おまけにその動きは明らかに兵士の配置を把握しているものだった。偶然では片付けられないな」


低く落ち着いた声で語ったのは、第一王子アルフォンス。そんな彼の言葉に続けるように口を開いたのは、第二王子のセオドアだった。


「連中の動き……内部から道筋を示されたようだな」

「まさか、王都の内部に……」

「断定は早計ですが、事実として迷わず正規兵の死角を突いてきました。今回の侵入者は獣人の能力持ち。……陽動や偵察にしては動きが雑なように思います」


どこかおどおどした様子の第三王子ユリウスに第四王子のルカが口を挟む。


そんな中、目の前で交わされる王子たちの言葉を耳に、フーリェンは侵入者と対峙した時のことを思い出していた。


守りの堅い南側の防衛網を難なく潜り抜け、ひと目で自身と獅子の男を『王宮の獣護』だと断定した、あの男の言葉。確信も確証もないが、王都の内に触れる誰かが介入していたのではないか。獣の勘が、静かにそう告げていた。


「これがアドラの仕業だと、断定は……?」

「西の国境沿いは私兵が彷徨いているようですが、王国軍には目立った動きはありません。むしろ──」

「“南”か?」


思考の淵に沈んでいる間にも、王子たちの議論は続いていた。


「名目上は友好関係にあるとはいえ、近年になって奴隷取引が水面下で再活発化していると報告を受けている。……一部の貴族階級が、裏で人身売買を黙認している可能性もある」

「その繋がりを辿ってくれば、王都に道を作るのは不可能ではないと」


セオドアが地図上の交易路に指を滑らせる。


「そういえば、さきの小競り合いでも捕らえた獣人は南部出身が多かった。能力を持つ個体が選ばれて送り込まれているとすれば、これは……」

「隣国が、動き出している」


独り言のように呟いたルカの言葉を合図にアルフォンスは静かに席を立つと、弟たちへと目を配った。


「これ以上は情報が必要だ。こちらが疑念を深めるより先に、手を打つ者がいるかもしれないからな」

「……同時に、国境付近の守りも強化しましょう。出入りの商人の名簿は、僕も見直します」

「兵士たちには不審者の記録を精査させよう。……フーリェン、お前にも任務を任せることになりそうだ」


アルフォンスのその言葉をしっかりと拾うと、フーリェンは静かに頷いた。

 

――――

静かな夕暮れを横目に、フーリェンは茜色に染まった空を見上げた。視線の先に見える尖塔には、赤く溶けた日が沈みかけている。


「おいおい、難しい顔してんな」

「……任務の話なら終わったでしょ」

「報告は済んだよ。殿下たちからも『口を滑らすな』って釘を刺されちまった」

「だろうね」


淡々としたその返答に、ランシーは苦笑する。


「ほんと手厳しいよな、お前。相変わらず任務だと表情ひとつ動かさねぇし」


フーリェンは答えずに歩を進める。


「さっきの奴の動き、違和感あるよな。俺らのこと、最初から把握してたっぽいし」

「陽動か、探り。あれは計っている動きだった」

「だよな。王都の守りを試してるってんなら──まったく、気持ち悪ィったらない」


無言のまま二人は歩く。赤銅色に染まった石畳が足元で軋んだ。


「平和そうに見えて……実は中、だいぶ腐ってんのかねぇ」

「……それでも、役目は変わらないでしょ。殿下と国を護る。それだけ」


彼の静かな言葉に、ランシーも口元を引き締めた。


「ま、そうだな。そんで──お前の能力、ほんと厄介。目で追うのでやっとなんだよな」

「……自分でどうにかしてよ」

「ひでぇ。ちょっと羨ましいんだよ。俺なんか単純に殴るしか能がねぇからさ」


そう言って小さく笑う彼の声に、フーリェンは足を止めた。そのまま後ろを歩いていた獅子へと視線を向けると、言葉を続ける。


「それで充分、信頼してるよ」


ふわりと、軟風が間を抜けていく。分かりやすいくらいにランシーの目が丸くなる。


「へえ……珍しくハッキリ言ってくれたな。どうした、熱でもあんのか?」

「うるさい」

「おっと、悪ィ悪ィ」


どこか満足げな顔。そんな彼の様子に釣られるように、ふっと肩の力が抜ける。


言葉が少なくても伝わるものはある。

信じているから成り立つ関係もある。


沈みゆく夕日が二人を照らし、王都の空が藍色へと変わっていく。


彼らは知っている。影が長く伸びるときこそ、護り手が必要なのだと。


そしてその時が確実に近づいていることを──心のどこかで、予感するのだった。


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