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王宮の獣護   作者: 夜夢子
第1章

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綻び

【登場人物】

セオドア…第2王子。シュアンランの主。温厚な理想家でありながら、政治的な駆け引きに長ける。

ユリウス…第3王子。気弱な性格。ランシーの主。

重厚な扉が静かに閉じられた。室内には、四人の王子と報告を終えたばかりのフーリェンとランシーが立っていた。


「……防衛を突破し、王都の中央近くまで入り込まれた。おまけにその動きは、明らかに兵士の配置を把握しているものだった。偶然では片付けられないな」


低く落ち着いた声で語ったのは、第一王子アルフォンス。背筋を伸ばし、卓上の地図に視線を落とす。その隣では第二王子セオドアが腕を組みながら、ゆっくりと口を開いた。


「連中の動き……内部から道筋を示されたようだな。敵国の偵察だとしても、単独行動にしては整いすぎている」

「まさか、王都の内部に……」


どこかおどおどした声で呟いた第三王子ユリウスに、第四王子のルカが口を挟んだ。


「断定は早計ですが、事実として迷わず正規兵の死角を突いてきました。今回の侵入者は獣人の能力持ち。……陽動や偵察にしては動きが雑なように思います」


彼の静かな声に、室内の空気がわずかに引き締まる。


交わされる王子たちの言葉に、フーリェンは心の中で一つの違和感に触れていた。


侵入者の動きは、防衛網を“確認”するようだった。確信も確証もないが、王都の内に触れる、誰かが介入していたのではないか。獣の勘が、静かにそう告げている。


「これが“あの国”の仕業だと、断定は……?」

「西の国境沿いは私兵が彷徨いているようですが、王国軍には目立った動きはありません。むしろ──」

「“南”か?」


思考の淵に沈んでいる間にも、王子たちの議論は続いていた。


「名目上は友好関係にあるとはいえ、近年になって奴隷取引が水面下で再活発化していると報告を受けている。……一部の貴族階級が、裏で人身売買を黙認している可能性もある」

「その繋がりを辿ってくれば、王都に“道”を作るのは不可能ではない」


セオドアが地図上の交易路に指を滑らせる。


「そういえば、さきの小競り合いでも捕らえた獣人は南部出身が多かった。能力を持つ個体が選ばれて送り込まれているとすれば、これは……」


言葉が途切れ、沈黙が場を支配する。


「……隣国が、動き出している」


ルカが独り言のように呟いた。その言葉にアルフォンスが静かに席を立ち、弟たちへと目を配る。


「これ以上は情報が必要だ。こちらが疑念を深めるより先に、手を打つ者がいるかもしれないからな」

「……同時に、王都の内偵も強化しましょう。出入りの商人の名簿は僕も見直します」

「兵士たちには不審者の記録を精査させよう。……フーリェン、お前にも任務を任せることになりそうだ」


アルフォンスのその言葉をしっかりと拾うと、フーリェンは静かに頷いた。


「…ご命令を。アルフォンス殿下」


ユリウスの後ろに控えていたランシーは、黙ったまま天井を見上げた。


嫌な風が吹いている。


獣の本能がそう告げているように、彼は小さく眉をひそめたのだった。

 

――――

静かな夕暮れを横目に、回廊を歩く。フーリェンは足音を忍ばせながら、茜色に染まった空を見上げていた。視線の先に見える尖塔には、赤く溶けた日が沈みかけている。


「おいおい、難しい顔してんな」

「……任務の話なら終わっただろ」

「報告は済んだよ。殿下たちからも“口を滑らすな”って釘を刺されちまった」

「だろうな」


淡々とした返答に、ランシーは苦笑する。


「ほんと手厳しいよな、お前。相変わらず任務だと表情ひとつ動かさねぇし」


フーリェンは答えずに歩を進める。


「……さっきの奴の動き、違和感あるよな。俺らのこと、最初から把握してたっぽいし」

「……陽動か、探りだ。あれは“測ってる”動きだった」

「だよな。王都の守りを試してるってんなら──まったく、気持ち悪ィったらない」

無言のまま二人は歩く。赤銅色に染まった石畳が足元で軋んだ。


「平和そうに見えて……実は中、だいぶ腐ってんのかねぇ」

「……それでも、役目は変わらないだろ。殿下と国を護る。それだけ」


彼の静かな言葉に、ランシーも口元を引き締めた。

「ま、そうだな。そんで──お前の能力、ほんと厄介。目で追うのでやっとなんだよな」

「…自分でどうにかしろよ」

「ひでぇ。ちょっと羨ましいんだよ。俺なんか単純に殴るしか能がねぇからさ」


彼の言葉に、フーリェンは一瞬足を止めた。そのまま背後を歩く獅子へと視線を向けると、静かな声で言葉を続けた。


「それで充分、信頼している」


その言葉に、ランシーの目が少しだけ丸くなる。


「へえ……珍しくハッキリ言ってくれたな。どうした、熱でもあんのか?」

「うるさい」

「おっと、悪ィ悪ィ」


どこか満足げなランシーの顔。

そんな彼の様子にフーリェンの目元がほんのわずかに緩む。


言葉が少なくても、伝わるものはある。

信じているから成り立つ関係もある。


沈みゆく夕日が二人を照らし、王都の空が夜へと変わっていく。


彼らは知っている。影が長く伸びるときこそ、護り手が必要なのだと。


そしてその時が確実に近づいていることを──彼らは心のどこかで、予感するのだった。


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