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王宮の獣護   作者: 夜夢子
第2章

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45/301

中継地点

ようやく朝日が砦に届く頃――


中継拠点となっている砦内部の広間には、休む間もなく負傷兵たちが次々と運び込まれていた。


戦場から戻った兵士の甲冑はひび割れ、布地には返り血が染み込んでいる。呻き声。怒号。名を呼ぶ声。一帯は、まさに戦の傷痕そのものだった。


その混乱の中で、ルカは静かに動いていた。


裾を捲り上げ、薬草を潰す手に迷いはない。若い兵士の足の傷口を水で洗い流すと、自ら包帯を巻き始めた。周囲に控える兵士たちが気を配りながらも、彼の手際に口を挟む者はいない。


「……この砦を、守らなければ。一人でも多く、立ち上がれるように」


自分に言い聞かせるようにそう呟いたルカは、ふと開かれた大扉を見やった。その先には、彼の護衛であり、大切な従者でもある――フーリェンが戦っている。


「無事でいてくれ……」


小さな呟きが、風に溶けた。


ヘラの命を受け、フーリェンは最前線へと向かった。ルカは当然、止めようとした。自ら前線に立つ彼を、危険な役に就かせたくなかった。だが開戦の直前、フーリェンはいつもの無表情で、ただ一言ルカに言った。


「行きます。ルカ様の国を、そして僕自身を、守るために」


――その目に、迷いはなかった。


「……あの子は、もう私の庇護を離れて、誰かの盾となろうとしているんだね」


そう呟いた過去が、脳裏をよぎる。


ルカはそっと手を止め、かすかに目を閉じた。目の前の負傷兵の手を、自ら取る。


「よく、戻ってきてくれた。……おかえり」


その声に、まだ意識の浅い兵士がうっすらと瞳を開けた。


「……殿下。西の砦は……まだ……持ちこたえて……ます」

「うん。わかっている。君たちが守ってくれた。……あとは、あの子たちに任せよう」


ルカはその手をそっと握り返し、他の兵士たちを振り返る。


「聞こえているか。――西は、まだ戦っている。彼らはまだ、立っている」


中継地に集まる兵たちの表情が、静かに変わっていく。疲労と痛みの奥に、希望が灯り始めた。


「だからこそ……私たちも、負けるわけにはいかない」


王子の声が、傷だらけの空に届いた。それはひとときの慰めではなく、これから再び前を向くための宣誓だった。


フーリェン


君が戦場に立つ限り――


どんな痛みも、どんな絶望も。


全て背負って、私もまた、立ち続けよう。

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