決戦の地と定む4
そうして砦の兵士たちが迫りくる獣人と激しい攻防戦を繰り広げる中、中継拠点となっている砦内部の大広間には、休む間もなく負傷兵たちが次々と運び込まれていた。
戦場から戻った兵士の甲冑はひび割れ、布地には返り血が染み込んでいる。呻き声。怒号。名を呼ぶ声。一帯は、まさに戦の傷痕そのものだった。
その混乱の中で、ルカは静かに動いていた。
裾を捲り上げ、薬草を潰す手に迷いはない。若い兵士の足の傷口を水で洗い流すと、自ら包帯を手に取る。医療班の兵士たちはそんな彼に気を配りながらも、その手際に口を挟む者はいなかった。
「……守らなければ。一人でも多く、立ち上がれるように」
自分に言い聞かせるようにそう呟いたルカは、ふと開かれた大扉を見やった。その先では、彼の護衛であり、大切な従者でもあるフーリェンが戦っている。
「無事でいてくれ」
ヘラの命を受け、フーリェンは最前線へと向かった。ルカは止めようとした。深手を負いながらも立つ彼を、これ以上危険な役に就かせたくはなかったのだ。しかし出陣の直前、フーリェンはいつもの無表情で、ただ一言言った。
「行きます。ルカ様の国を、そして僕自身を、守るために」
その目に、迷いはなかった。
『あの子は庇護を離れて、誰かの盾となろうとしているんだね』
そう呟いた過去が、脳裏をよぎる。
ルカはそっと手を止めると、目の前の負傷兵の手を取る。
「おかえり。よく、戻ってきてくれたね」
その声に、まだ意識の浅い兵士がうっすらと瞳を開けた。
「……殿下。西の砦は……まだ、……持ちこたえて……ます」
「うん、わかっている。君たちが守ってくれた。……あとは、あの子たちに任せよう」
ルカはその手を力強く握り返すと、慌ただしく動く兵士たちへと向き直った。
「聞こえているか。――西は、まだ戦っている。彼らはまだ立っている」
中継地に集まる兵たちの表情が、静かに変わっていく。疲労と痛みの奥に、希望が灯り始めた。
「だからこそ、私たちも負けるわけにはいかない」
それはひとときの慰めではなく、これから再び前を向くための宣誓だった。
フーリェン。
君が戦場に立つ限り――
どんな痛みも、どんな絶望も。
全て背負って、私もまた立ち続けよう。
誰よりも真っすぐに他者を想い、その身を盾にする従者に向けて。
ルカはただ、この戦の終わりを切に願うのであった。




