第七隔離区域
第七地区。フェルディナ王国と東の隣国シンとの境界線に位置するこの区画は、どちらの国にも属さない隔離された場所であり、かつては大規模な奴隷市や奴隷を使った商売を生業とする者が集まる無法地帯でもあった。
そんな過去の負の遺産を視界に、セオドアとシュアンランはボロ布のような衣に身を包み、闇に紛れて歩いていた。
「……変わりませんねここは。腐臭と血の匂いが混じっている」
「よく覚えているな。お前がここを通ったのはまだ八つかそこらの頃だっただろ」
「……あの時は補給班として後方支援のために同行しましたが、忘れるような場所ではありませんよ」
小声で会話を続けながら歩みを進めていく。突然、セオドアの視線が鋭く細められた。彼は小さな路地の前に立ち止まると、古びた木戸の扉に耳を当てる。シュアンランも彼にならい、狼の耳をそばだてる。
「……なあ、あの噂知ってるか? ――が生きていたらしいぞ」
「本当か? 俺はてっきり、あんときに処分されたと思ってたぜ」
「兄貴の方はずいぶん出世したんで、さぞあの方は悔しかっただろうさ」
「違いねえ。上手くいきゃ二匹ともいい値で売り飛ばせたもんな」
やはり、情報が漏れている。
コンコン、と遠くで小さく靴音が鳴る。シュアンランの合図だった。彼の視線の先には、深く外套を被った男が三人、卓を囲んで話し込んでいた。
「場所が厄介だ。双子の兄もそうだが、王宮の警備体制は複雑で外から入るのは難しい」
「――の動きを待つしかない」
「奴は南で”異形”を殺したらしい。あれが計画外だった。あれさえなければもっと――」
会話の内容に耳をピクピクと動かしながら、シュアンランは主人へと次の指示をこう。
「セオドア様。すぐにでも制圧可能です」
「いや、今は泳がせる。会話を記録できるか?」
「はい。ですがもう一つ、気になる話が」
シュアンランは続ける。
「奴らは数日以内に“標本”がフェルディナの王都から外へ出ると言っていました。やっぱり、いますよ……内通者」
「信じたくはなかったが、そのようだな。シュアン、敵の背後にいる者の情報を探る。尻尾を切らせるな」
「お任せを」
二人は再び身を隠しながら、廃墟の影を縫うように夜の街を進む。路地に横たわる酔い潰れた男、遠くで燻る焚火の煙、飢えた視線を向ける放浪者。廃墟となった第七地区には、命の形をした絶望が静かに積み重なっていた。




