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王宮の獣護   作者: 夜夢子
第2章

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22/334

一手

王宮の最上階にある円卓の会議室では、四人の王子たちが静かに卓を囲んでいた。


連日のようにこの部屋で協議を重ねているせいか、ただ座っているだけでも張りつめた空気が肌に刺さる。隣国との間で立て続けに発生している一連の問題が、もはや猶予を許さない段階にあることをこの場の全員が痛感していた。


南のオルカと西の小国リヴェラが異形計画に関与。


南では数体の異形の運用が確認された。さらに王都内に南の密偵が潜伏しているという可能性の浮上。そして、新たな報告。


第三軍が担当していた東方補給部隊が、突然の襲撃を受けた。


襲撃者の数は少なく、動きも粗雑で戦術としては稚拙だったため、被害自体はごく軽微に収まった。


だが、看過できない異常があったのだ。


回収された襲撃者の遺体の中に、かつて東の境界地区で使われていた奴隷印とまったく同じ刻印を持つ者が混じっていたのである。


口火を切ったのはセオドアだった。


「……先日の襲撃から、俺は第七地区に動きがあるとみている」


静かな会議室に響いた言葉に、その場の全員がぴくりと反応する。重い沈黙が落ちるその空気を切り裂くように、彼は兄弟たちへと言葉を繋げる。


「東へは、俺がシュアンを連れて向かう。裏から動きを探ろうと思っている」

「なら、王都内の密偵捜索は私たちで当たろう」


アルフォンスがジンリェンに目をやる。


「護衛としてではなく、”目”として動いてもらうぞ、ジン。お前にしかできない動きがある」

「承知しました、アルフォンス様」

「……では、私にも一つ、役をお任せいただけないでしょうか」


淡々と返したジンリェンの後、少しだけ頼りない声が部屋に響く。王子たちの視線が静かにその声の主へと注がれる。ユリウスは、目を伏せつつも薄く笑んだ。


「先日捉えた南側の侵入者……拷問では得られなかった情報も、僕なら引き出せるかもしれません。なに、暴力ではありません。……『会話』です」

「お前の『会話』は、少し変わってるからな……」


アルフォンスが眉をひそめる。


「ですが成果はあげております」

「そうだな。……ユリウス、何でもいい。情報を引き出してこい」

「承知しました」


ユリウスは席を立ち、静かに退出の準備を始めた。口を挟まずにやり取りを聞いていたルカもまた、決意を固めたように兄たちへと視線を向ける。


「私とフーは、オリバーを伴って北の砦へ向かおうと思います。一度母上に王都の状況について報告をしてきます」

「分かった。フーリェン、頼んだぞ」

「はい」


抑揚のない声でそう返したフーリェンの目は、静かに王子たちを見つめていた。


重い沈黙の後、アルフォンスが場を引き締めるように卓を手の甲で叩く。


「戦はすでに始まっている。お前たち、気を引き締めろ」

「……なら、こちらから先に仕掛けるとしよう」


アルフォンスの言葉に、セオドアが続く。その視線は鋭く、だか確かな信頼を持って、二人の弟へ、そして自分たちに付き従う護衛たちへと向けられた。


こうして、王国の未来を左右する一手が今、確かに打たれたのであった。

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