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王宮の獣護   作者: 夜夢子
第1章

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夢の底

暗い水の中を沈んでいくような感覚だった。


声も音も、遠くぼやけて聞こえる。


フーリェンは夢の中で立っていた。


霧のような闇の中、足元には黒い影が広がり、遠くには誰かの背中が見えた。


ボサボサの毛並み。鋭い爪。歪んだ獣の体。


(あれは……僕か?)


それは地下で相対した“異形”だった。けれどどこか、自分の輪郭と重なって見えた。


場面が変わる。


焼けた鉄の匂いと、乾いた砂の味が口内に広がった。


(また、変わってる……)


小さな手が、目の前の水面に映る姿を探る。


だがそこにいるのは、先ほど見かけた爬虫類の鱗を持つ自分だった。昨日は鳥の羽毛。その前は、よく分からない何かと何かが混ざった化け物。


傍らの兄だけが、自分を「弟」と呼んでくれた。


けれど、自分の体が女にも男にも見えると誰かが笑ったとき――兄の表情が、どうしようもなく苦しげに歪んだのを、覚えている。


(見ないでほしい。誰にも、見られたくない)


能力は、ただ「見たもの」を映すだけ。


それは生き残るための術であり、同時に「自分」を失っていく呪いでもあった。


夜になると兄のそばでひとり、じっと自分の手を見つめて過ごした。手の形は、また違っていた。細くも太くもなり、獣の爪も、人の指も交ざった。


(……ぼくは、だれ?)


名を持たず、形を持たず、声もままならなかった頃。


その問いは、喉の奥で石のように詰まり続けた。


(もしまた、昔のように自分を見失ってしまったら)


僕はきっと、あの異形のようになってしまう。

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