表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王宮の獣護  作者: 夜夢子
第2章
12/250

夢の底

暗い水の中を、沈んでいくような感覚だった。

声も音も、遠くぼやけて聞こえる。


フーリェンは、夢の中で立っていた。

霧のような闇の中、足元には黒い影が広がり、遠くには誰かの背中が見えた。


――ボサボサの毛並み。鋭い爪。歪んだ獣の体。


(あれは……僕か?)


それは、地下で相対した“異形”――けれどどこか、自分の輪郭と重なって見えた。


場面が変わる。


焼けた鉄の匂いと、乾いた砂の味が口内に広がっていた。


(また、変わってる……)


小さな手が、目の前の水面に映る姿を探る。

だがそこにいるのは、さっき見かけた牛獣人の角を持った自分。昨日は鳥の羽毛、その前は爬虫の鱗。

どれが本当の自分の姿だったのか、もはや思い出せない。


傍らの兄だけが、自分を「弟」と呼んでくれた。

けれど、自分の体が、女にも男にも見えると人々が笑ったとき――兄の表情が、どうしようもなく苦しげに歪んだのを、覚えている。


(見ないでほしい。誰にも、見られたくない)


能力は、ただ「見たもの」を映すだけ。

でもそれは、生き残るための術であり、同時に「自分」を失っていく呪いでもあった。


夜になると、兄のそばでひとりじっと自分の手を見つめていた。手の形は、また違っていた。

細くも太くもなり、獣の爪も、人の指も交ざった。


(……ぼくは、だれ?)


名を持たず、形を持たず、声もままならなかった頃。

その問いは、喉の奥に、石のように詰まったままだった。


(もしまた、昔のように自分を見失ってしまったら--)


僕はきっと、あの異形のようになってしまう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ