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歌の練習とお披露目会

     

 僕は世界中に音楽を広めるために、アマリアさんとユリナさんとカズラさんに歌を教えて各国を回る計画を立てた。


 ♪・・・♪・・・♪。


 何とか書けるようになったこの世界の文字で書いた歌詞をアマリアさんとユリナさんに渡すとハーモニカを奏でた。カズラさんには馴染みのある歌なので歌唱の指導をお願いした。


 吟遊詩人のおじさんが遣っていたように、先ずは子供の心を掴まないとダメだと考え童謡から始めることにした。


「歌って難しいのね」

 ハーモニカとリズムが合わないアマリアさんが一番に根を上げた。


「初めから上手くは歌えないさ。ハーモニカをよく聞いてテンポを掴むといいよ」


 ♪・・・♪・・・♪。


 [赤とんぼ]を何度も吹いて聞かせた。


「歌の情景がよく分からないの、ハーモニカの力で何とならないの」

 歌詞の意味が理解出来ないと、ユリナさんが無理難題を言ってきた。


 確かに夕焼けはディフラントでも見られたが、赤とんぼは見たことがなかった。


「人前で披露するなら、バックに映像が流れたら盛り上がるのは間違いないわね」

 カズラさんはテレビの歌番組のような状況を思い描いているようだ。


「遣ってみようか」


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 ハーモニカに魔力を流し、子供が赤とんぼを追いかける姿を想い描きながら演奏をした。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 体から溢れ出す八色の光が教会の壁に、まんが昔話に出てきそうな素朴な絵を浮き上がらせた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


「こんな感じの歌なのね」

 三人はプロジェクトマッピングのような絵を見詰めている。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


「夕やけ小やけの …………」

 ユリナさんの歌声に感情が篭ってきた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


「いい感じ。もう少し口を大きく開けて歌って」

 カズラさんの指導にも熱が篭った。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


「私だって負けないわよ」

 ハーモニカの音色に耳を傾けていたアマリアさんが、テンポを合わせられるようになってきた。





 数日間練習をした僕達は、教会で住民に披露する事にした。


「「「緊張するわね」」」

 練習風景は仕事の合間に覗きに来ていた住民に見られていたが、大勢の前で本格的に歌う三人はかなり緊張しているようだ。


 教会の前に設置したステージの前には、トライ村、チャレンジ村、ディフェンス村の住人五百人以上が集まっていた。


「ツハリー皇帝閣下にラブリーヌさん!」

 【氷結の薔薇】のメンバーの隣に二人がいたのに驚いた。


「驚いた? 私が今日の事をラブリーヌに連絡したらどうしても行きたいと言うから、転移魔方陣を使わせて貰ったの。黙っていてご免なさい」

 カズラさんが頭を下げているが、悪びれたようすは見えなかった。


「でも、あそこはツバキ達が警備しているだろ?」

 何の報告もなかったので少し驚いた。


「ジュンイチの友達たちにとっては、妻である私達三人は主と同格なのよ。私が黙っていてとお願いしたら頷いていたわ」


「妻って。あまり勝手なことをしないで下さいよ」


「はい。旦那様」

 ウインクするカズラさんに、それ以上何も言えなくなってしまった。





「集まって頂きありがとうございます。今日は我々のリーダーが世界平和のために音楽を広めていく第一歩になります、応援宜しくお願いします」

 アマリアさんがステージに上がって挨拶すると、盛大な拍手が沸き起こった。


「では先ずは、リーダーに一曲演奏して貰いましょう。リーダー宜しく!」

 進行を任せていた僕は、呼ばれてステージにあがった。


 期待に満ちた沢山の視線に晒されて、魔人と対峙したとき以上に心拍が跳ね上がった。


 ♪・・・♪・・・♪。


 何も言わずにいきなり[古城の月]を吹き始めた。


 ♪・・・♪・・・♪。


 心を落ち着かせなければと思うのだが、静まり返っていく雰囲気にさらに緊張感が膨らんでいった。


 ♪・・・♪・・・♪。


『主、頑張って下さい』


 ♪・・・♪・・・♪。


 サスケの思念に支えられながら演奏を続けた。


 ♪・・・♪・・・♪。


 一曲吹き終えて割れんばかりの拍手を送られる、やっと落ち着きが戻ってきた。


 練習中は三人に厳しく言っていたが、いざとなると一番不甲斐ない自分に心が折れそうになった。


 こんなことで世界中を回って平和を訴えられるか、甚だ疑問だった。




「次は、リーダーのハーモニカに合わせて私達三人が歌を歌います。まだ数曲しか歌えませんが、楽しい歌ばかりなので皆さんも口ずさんでください」

 揃いの衣装を身につけた三人が立つと、ステージが一気に華やいだ。


「後ろの壁には歌に合わせた絵が流れますので、そちらも楽しんでください」

 ユリナさんの笑顔が眩しかった。


「リーダー、お願いします」

 カズラさんがステージの端に下がった僕に合図を送ってきた。




 ♪~~~♪~~~♪‼。


 何度も練習した[赤とんぼ]を吹き始めた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


「「「夕やけ……」」」


 三人が体を左右に揺らしながら歌い出した。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 僕の体から溢れ出す魔力が描くプロジェクションマッピングには楽しそうに走り回る子供達の姿が描き出されていた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 何度もハーモニカを聞いて馴染みのある住民達は、歌う三人に合わせて楽しそうに体を揺らしている。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


(世界中の人が皆、こんな風に楽しんでくれたいいんだがなぁ)


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 アマリアさんとユリナさんとカズラさんも、冒険者時代には見せた事のない和やかな表情をしている。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


「もっと聞かせて!」


「もう一度!」


「もう一度!」

 三人が覚えた五曲が終わるとアンコールの嵐が起こった。


「今度は皆も一緒に歌って。リーダー、歌詞を映し出して」

 アマリアさんが無理難題を言ってきた。


「出来るか遣ってみるから、少し待ってよ」


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 歌詞を思い浮かべながらハーモニカを吹いた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


「流石はリーダー、何でも出来ますね」

 壁を見ると赤とんぼの歌詞が浮かび上がっているのでホッとした。


「では、皆、いくよ!」

 右手を突き上げるアマリアさんがノリノリでリードしているので、今度こそリーダーを任せようと心に決めた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 初めは大人しかった会場の歌声が、少しずつ大きくなっていた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 元盗賊だった人も、


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 魔族も、


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 元兵士だった人も大声で歌っていた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 ハーモニカの音色と歌声が、平穏を取り戻しつつある北の大地にいつまでも響いていた。


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