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未来への決断


 ディフラントの危機は一時的には去り、ツハリーさんとラブリーヌさんは自国に帰っていった。


 【氷結の薔薇】のメンバーは、北の大地の復興に尽力したいと申し出てくれたのでお願いすることになった。


 迷いを吹っ切るように高台でハーモニカを吹く日々を送る僕を、仲間は静かに見守っていてくれた。


 日本での生活に未練がある訳ではなかったが、両親の思い出がなくなってしまう事は寂しかったし、こちらで知り合った人達が消えてしまう事も堪えられなかった。


 ♪・・・♪・・・♪。


 ♪・・・♪・・・♪。


 父の好きだった[古城の月]と、幼いころ母が歌ってくれた[赤とんぼ]を吹いた。


 ♪・・・♪・・・♪。


 ♪・・・♪・・・♪。


 仲間を想って[信頼]と[ともだち]も吹いた。


「最近のハーモニカの音色はどれも寂しそうね」

 アマリアさんが声を掛けてきた。


「悩みがあるのなら話してよ、仲間なんだから」


「ありがとう。話したい事があるから、皆を僕の家に集めてくれないかな」


「分かった」


『主よ、決心がついたのですか?』

 アマリアさんが去っていくと、サスケが寄ってきた。


「いいや。この世界に来て最大の難問だよ」


『主は見違えるほど強くなっています。どんな問題も解決出来ると思いますよ』


「サスケが居てくれて心強いよ」

 久し振りにフサフサの頭を撫で回すと、何度も助けられた事が甦ってきた。サスケの家族のためにも、この世界を消滅させる訳にはいかないのだ。




 家に帰ると皆が集まっていた。

 いつもは会議を仕切るアマリアさんも、今日は静かに僕が話し出すのを待っている。


「皆には心配を掛けて申し訳ない。今から話す事は皆にも関係する事だから僕一人では決められないので、意見を聞かせて欲しいんだ」


「仲間でしょ。何でも話して」


「魔王城での事なんだが、……」

 あそこで起きた三者会談の内容を皆に話した。


「マサトさんが魔王を倒したとは思っていなかったけど、そんな事があったのね」


「それで、ジュンイチは元の世界に帰っていくの?」

 アマリアさんとユリナさんが、泣き出しそうになっている。


「この世界が消滅するかも知れないのに、帰れないだろ」


「帰れない理由はそれだけなの?」

 カズラさんが突っ込んでくる。


「皆の事が心配だからだよ」


「だったら、生涯を掛けてこの世界を平和に導くしかないんじゃない」


「簡単に言うけど、戦争をなくすなんて大変な事だぞ」


「簡単だとは思っていないわ。ジュンイチがこの世界のために生きるのなら、私もこの世界で人生を送るわ」

 カズラさんが険しい表情をしている。


「何を言っているんだ。君は日本に帰るべきだろ」


「だから、私はジュンイチが好きだから妾でいいから傍に居たいのよ。アマリアもユリナも、自分の気持ちをはっきりと伝えておくべきよ!」

 カズラさんが大胆な告白をしてきた。


「約束したわよね。二度と私達を置いてどこにも行かないと」


「そうよ。私だってどんな苦労があっても、ジュンイチと一緒に居たいわ」

 アマリアさんとユリナさんが涙を零した。


「リーダー。僕達も手助けするから、この世界を救ってくれないか」


「お願いします」

 フレッド君とジュリアナさんが頭を下げている。


「こんな僕に出来ると思うかね」


「ジュンイチにしか出来ないと思うわ」

 笑顔になったアマリアさんが僕を見詰めている。


「頑張ってみるから力を貸してくれるかな?」


「勿論よ」

 皆の笑顔を見ていると、どれだけの事が出来るか分からないが、ディフラントの未来を切り開く努力をしようと決断した。


「ガイアにフェニックにポセイドンは、それぞれの持ち場に戻って自然を守ってくれないか?」

 部屋の隅に控えている三兄弟に声を掛けた。


「「「分かりました。御用がある時はいつでもお呼びください」」」


「ありがとう。エイアイは引き続き僕にこの世界の事をもっと教えてくれるかな?」


「分かりました」


「サスケ達は今まで通り僕を守ってくれ」

 いつもは寝転がっているサスケが、今日は家族揃ってお座りをして頷いている。


『ご主人様、私は何をすればいいのですか?』

 ジャーマンの思念が飛んできた。


「ジャーマンには留守が多くなるハーモニーの警備を頼むよ」


『分かりました』

 ジャーマンが嬉しそうに尻尾を振っている。


「ジュンイチにお願いがあるの」

 いつも勝気なアマリアさんが頬を赤らめている。


「何かな?」

 最大の厄介事に取り組もうとしているので、多少の願い事など問題ないと気軽に考えていた。


「私達三人と、結婚して欲しいの」


「はあっ!」


「私からもお願い。今言って置かないと、機会を逃してしまいそうなの」

 ユリナさんも頬を赤らめている。


「私もいいの?」

 カズラさんはアマリアさんとユリナさんを見ている。


「勿論よ」


「リーダー、おめでとう。ついでに言って置くけど、僕はジュリアナと結婚する事にしたから」

 フレッド君がジュリアナさんの肩を抱き寄せている。


「それは、おめでとう。しかし……」

 女性三人を見ると言葉が出てこなかった。


「日本と違って、この世界では妻を何人持っても構わないそうよ」

 カズラさんが斜め上な事を言ってくる。


「そう言う事ではなくて、僕はまだ結婚なんて考えた事もないんだよ」


「私達の事が嫌いじゃなかったら、真剣に考えて」

 アマリアさんが真顔で迫ってきた。


「皆の事は好きだけど、返事は暫く待ってくれないか」

 この世界の厄介事は僕を目の仇のように追ってきて、心の平穏が訪れるのはいつになるか分からなかった。


「いつまでも待っているわ」


「ありがとう。今日はこれで解散しよう。明日からも頼むよ」

 難問が増えて頭が痛くなってきたので、早く一人になりたかった。


「それじゃ、明日の朝も食事を作りにくるわ。夕食はテーブルに置いてあるから食べてよ」

 五人が家を出て行くと大きなため息が洩れた。


『主よ、大変な事になりましたね』


「この世界に来て二年。のんびり田舎暮らしをする筈が、心が休まる暇がないよ」


『頑張ってください』

 サスケは大きくなった子供を連れて、自分達の部屋に戻っていった。


 愚痴る相手がいなくなったので、仕方なく食事を済ませるとベッドに潜った。


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