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幕間 宿屋にて

 ――響也視点


「おう、じゃあな」


 駄々をこねて暴れているベルニカの後ろから半ば締め上げるように羽交い締めにして、なんてことないかのように強引に連れて行くフィリスに片手をあげて答える。


「……ベルニカの、揺れてたな、ってそこじゃなくて! いくらベルニカがちっこいとは言え、あんだけ暴れてるのに難なく抑えつけて連れて行けるのってフィリス、結構強いんじゃね……?」


『親友だ』なんて言っていたから慣れているだけ何だろうな、と適当な結論をつけて最後に教えられた宿屋へと向かうことにした。


 時間を調べる物がないから今が何時なのか、まったくわからないが日没からの体感時間からするとそう時間は経っていないように思える。

 にもかかわらず、周りには誰もいない。

 通りを歩いている人影もない。


「そりゃそうだよな」


 この村に来てまだそれほど経っていないが、娯楽がほとんどないことはすぐにわかる。

 生活感丸出しのただの村、と言う印象だった。


「しっかし街灯も無ければ派手な電飾も無い、しかもこの間みたいな篝火も無いから星空は凄く綺麗に見えるんだよなぁ。前の世界にいたときは見れなかった光景だよな」


 フィリスの言っていた宿屋は遠眼からでもすぐに分かった。

 だけど敢えてゆっくり歩いて宿屋へと向かった。もう少しだけ、この星空を見ていたかったから。


 宿屋の入り口ドアを開ける。

 くっそ重たい。

 重たい理由はすぐに分かった。

 この村の娯楽はここにあったのだ。

 猛烈に酒臭い、そしてうるさかった。

 つまりここは宿屋兼酒場なのだ。


 見れば、俺と大して年が変わらないような青年から年配まで幅広い年齢層が集まっている。

 もうすでに出来上がってる奴らばかりのようで入り口から誰か入ってきても気にする者はいない。

 とは言え、絡まれるととても面倒そうなので気配を殺して宿屋の受付へとゆっくりと急ぎながら向かった。


 受付には小さな女の子がこっくりこっくりと舟を漕ぎながら座っていた。

 話しかけていいものかどうか躊躇っているとガクッと大きくバランスを崩す女の子。


「うみゅっ? はっ、いけないいけない。また寝てたよぉ。もぅ早く来てくれないかなぁ――って、あ」


「ね、寝てたところ悪いな。俺は響也 鈴重ってんだが村ちょ――」

「し、失礼しましたっ! お待ちしておりました、ススシケ様! 村長様よりお話は伺っております。こ、こちらへどうぞ!」


 慌てて足がフロアに着いていなかった椅子から飛び降り、女の子は奥へと案内してくれる。

 どうやらフィリスから聞いていたとおり村長の手配で部屋は取れているようだ。

 しかし……


「もしかしておまえ、俺のこと待ってたのか?」


「え、は、はい! 村を救って下さった大切なお客様だから失礼の無いように申し使ってお、おりますデス!」


 やっぱりか。


「そか、済まなかったな。この村から見える星空があんまり綺麗だったんでつい見とれて遅くなっちまったんだ」


 女の子の頭をくしゃっと撫でる。

 慌てて女の子が俺の方へと向き直り、小さい身体をあたふたさせながら弁解しようとする。


「あっ……。あ、えと、だ、大丈夫です! 今日はたまたま眠かっただけで! い、いえ、寝ていたわけでは無いんですけど――」

「いいって。気にしてねぇよ。まだ小さいのに家のこと手伝って偉いよな、えっと……」


「あ、あのミール、と言います」


「ミールか。ありがとな」


 ミールの頭をもう一度くしゃっくしゃっと撫でる。


 部屋に案内された後、ミールに明日の朝一般的な朝食の時間に起こしに来てくれるように頼んだ。


「さて、室内はどんなかなっ、と」


 部屋は普通。トイレとシャワールームがあった。

 何の変哲も無い村のことを考えれば、かなり良い部屋なのだろう事が想像できた。


 水圧を確かめようとするが、コック式でもなければハンドル式でもない。赤と青の石が埋め込まれているだけでどうやって水を出すのかわからなかった。


 仕方がないと諦めて、ベッドの端へと座る。

 少し固めだが、悪くない。

 元々どこでも寝れる性質なので細かいことは気にしない。


 窓の方へと顔を向けて目を閉じて集中する。


「んー、やっぱ、まだいくらか彷徨ってんのがいる感じだな。んじゃ、食後の運動とさっき聞いた俺の能力を試してくるか!」


 目を開くと同時に窓に片足を掛けて満天の星空の下へと飛び出したのだった。


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